「虚子の海」
作者:有魚神弥

DLpixivbooth

※本文テキストや画像素材はDLから


深い深い海の底のような黒い髪と、眩しいほどに白いセーラー服を風になびかせながら、少女はニコリと笑った。

 

人数:1人~(ソロ)
時間:3~4時間
推奨技能:目星、聞き耳、図書館、日本語、忍び歩き、登攀
準推奨技能:跳躍、投擲、回避、戦闘
ロスト:中確率
備考:真夏の正午の海
注意:水害、虫、カニバリズム、欠損、迫害、虐待、神話生物の独自解釈

 


◆概要
人数:一人(ソロ)
時間:三、四時間程
推奨:目星、聞き耳、図書館、日本語、忍び歩き、登攀
準推奨:跳躍、投擲、回避、戦闘
ロスト:中確率
備考:真夏の正午の海


ざざ、ざぁー、ざぷん、と不規則に波が揺れ弾ける音が辺りに響く。
波のあぶくが生まれては消え、遠くの海面が陽の光を反射しきらきらと光る。
深い深い海の底のような黒い髪と、眩しいほどに白いセーラー服を
風になびかせながら、少女はニコリと笑った。

海×少女×セーラー服

「うろこのうみ」と読みます。
真夏の正午の海辺を、セーラー服の少女とお喋りしながら歩くシナリオです。
正しくは「真夏のクソ暑ギラギラ太陽でキラキラ光る海と白いワンピースで中性的ミステリアスお姉さん系黒髪少女と一緒に浜辺を歩いてお話するシナリオ!!!」です。
さっぱり短めスタンダード系クローズドシナリオな気がします。
テキストセッション想定で大体三~四時間程度かかると思います。ボイセなら二時間くらいで終わるかも。
正直RP量によります。やろうと思えばさっくりでもガッツリでも遊べるかと思います。

渾身の美少女立ち絵も描きましたので併せてご使用ください。表情差分7種+αの透過pngと、差分組み合わせられるpsdがあります。
またフォロワーが彼女を「虚子ちゃん(仮)」と呼んでいたのが気に入ったので、NPCを呼ぶ際に使ったり使わなかったりしてください。
他にもDL版にはココフォリア等で使える部屋素材とかが付いてきますのでご活用ください。

一部にサプリメントの「マレウス・モンストロルム」のデータを使用していますが、持っていなくても回せます。

感想やご指摘、疑問点などありましたらお気軽にどうぞ。

※注意事項※
このシナリオは以下の要素を含みます。
水害、虫、カニバリズム、欠損、迫害、虐待、神話生物の独自解釈

ポットラックパーティー企画2023参加作品です。


◆◇◆ 利用規約 ◆◇◆
シナリオ利用規約に目を通し、理解いただいた上でご使用ください。


◆◇◆ 権利表示 ◆◇◆
本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright (C)1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION


◆◇◆ 更新履歴 ◆◇◆
2023.07.21 公開開始。

今後の更新予定
 テストプレイを経ての調整や追記など

 



以下本文です。

 

 

 

 

 




◆◇◆ 背景 ◆◇◆
その海では、たびたび行方不明者や溺死者が出ることがあった。
特に荒れやすいわけでも海流が複雑なわけでもない、何の変哲もない普通の穏やかな海なのに、だ。

そこには、一人の少女が現れる。ずっと昔から存在している、少女のかたちをした人間ではないものが。
彼女は一人でいる人間を狙って声をかける。友好的な様子で、向こうにある私の家まで一緒に歩かないか、と。
招かれた建物は家というにはボロボロで設備もなく、ただの物置小屋のような場所だ。
そこで招かれた人間は、少女が既に死んでいること、その首が近くの崖下に遺されていることを知る。
しかしそれを葬ろうにも、足場の悪い崖、暗い海、現れる化け物……様々な理由から皆命を落としていった。

解放されることを待つ少女のようななにかについて知る者はいない。
彼女に関わった者は皆、死んでしまうのだから。

 


◆◇◆ NPC ◆◇◆
[少女]
偽名:カイ
本名:海子(うみこ、みこ)
年齢:16歳程度
DEX14 SIZ11 APP18 POW18 INT18

・概要
深い深い海の底のような黒い髪と目を持つ少女。
とある浜辺にやってきた探索者と出会い、共に浜を歩く。
長く艶のある黒髪と白いセーラー服を潮風になびかせており、中性的でミステリアスな雰囲気を持つ。
色白な裸足の脚と白魚のような指先を持つ腕が、強い日差しを眩しいほどに反射している。

・生い立ち
少女がまだ幼児の頃、海辺に捨てられたところを、かつてこの辺りにあった小さな村に拾われた。
海からやって来た子として元々は「海子(うみこ)」という名だったが、呼ばれるうちに「みこ」に転じていった。どちらで読んでも正しい。
はじめこそ少女は大切にされていたが、大きくなるにつれ、魚と話せると言う、海に向かって不思議なうたを歌う、海に"帰り"たがる、といった奇行を見せ始めると、扱いは変わっていった。
次第に村人たちは少女を「流れ着いた人魚」だと考えるようになり、気味悪がり、少女を海辺の小屋に閉じ込めたがった。

拾われてから十数年が経つ頃には、少女はたいそう美しく聡明な娘に育っていた。
その頃にはもう奇行は見せなくなっていたが、村人の大半は、少女は人魚であること、そして、人魚の肉を食べれば不老不死になるという迷信を信じてしまっていた。
そして少女が16歳ほどになったある日の晩、宴が行われた。
少女は脚から順に肉を削ぎ落とされ、その肉は村人たちに振る舞われていった。
少女が息絶えた後、その身体は解体され、供養のために首だけが崖下に作られた祠に祀られ、残った身体は火葬され海に流された。
その翌年、村は大嵐によって荒れた海に呑まれ家も人も何もかもが無くなった。

詳細な時期および地域は決めていませんが、時期に関しては明治~昭和初期頃とすると現代人でも手書きの手記が読めるかなと思います。
その辺の設定が必要な場合は適宜なんかいい感じにしておいてください。

・正体
少女の正体は、深きものの混血種である。
人間との交配の末生まれた彼女であったが、その姿はあまりにも「美しい人間」のものであった。
深きものの混血種のAPPは通常2d6-1で求められるが、少女のAPPは18であるため、本来存在し得ない奇形のステータスで生まれてしまった。
まだ幼いとは言え深きものとしては異質な娘を気味悪がった親および集落の者たちは、彼女を海に捨てた。
そうして流れ着いたのが、件の村だった。

・首
遺された少女の首はその特異な出自や無惨な最期から、魔術的・呪術的な力を秘めてしまっている。
こうなることを予見した少女は、己の身体が魔術等に利用されないように策を講じていた。
その結果彼女の首が祀られた祠には結界が張られ、その周囲ごと翌年に発生した大嵐の波によって現実から位相のずれた異界へと流れ込んでしまった。
大嵐と少女の首の因果関係は不明であり、流された村や村人の行方についても定かではない。
当時にどうなっていたにせよ現在から見れば昔の出来事のため、探索者には関係がない話である。

現在は少女の手引無しでは簡単には迷い込めない異界と祠に張られた結界によって何事も起きていない。
しかしそれらの力が弱まるか、それを上回る力を持った何者かに破られた時、そしてその首の力が悪用された時、何が起こるかは分からない。
邪悪な神を喚ぶための供物として使われたら、強大な存在を揺り起こすための儀式に使われたら、世界のバランスを大きく変えるために使われたら……その懸念が真実になり得るだけの力を、それは秘めてしまっているのだ。

とにかく少女としては、自分から遺ったものが勝手に利用されることをよしとしなかった。
しかし彼女自身ではどうしようもない範囲にある問題のため、外から連れてきた誰かの手によって、身体と同じように葬ってもらうほかないのである。

・探索者が出会うモノ
"彼女"は「この浜辺にやってきた人間を異界に誘い込み、放置されてしまった少女の遺体を葬らせるために案内をする」ことを目的としたプログラムのような存在だ。
祠のある崖の近くの海辺に一人で居る人間を狙い、自らのテリトリーかつ葬る目的である首が存在する異界に引き寄せている。
当時を生きていた少女やその霊体そのものではなく、少女の想いや役割といったものが機構・概念として残っているだけのものである。
彼女には実体が無く、傷付けることもできないが、触れることはできる。厳密には「触ったと錯覚・認識すること」ができる。
PCも彼女もお互いに言葉以外で影響を与え合うことはできず、たとえできたように思ってもそれは「そうなったように錯覚した」だけである。
彼女は見た者が違和感を覚えないような、現代の浜辺に居てもおかしくない容姿・服装で現れることができる。

彼女に少女の自我は存在しない。彼女は崖下の少女の遺体へ人間を導くための機能、餌でしかない。

また、この異界の中は彼女(少女の首)のものであり、彼女はそこに様々な影響を与えることができる。
探索者が出会う少女の姿もその一つであり、小屋や崖で探索者を助けるものもその影響によるものだ。
それと同じように、崖下に落ち葬ることに失敗して死んでいった人間たちを食い漁るフナムシやカラスも、彼女そのものである。
彼女はそうして現代の人間に関する知識を取り込み、次に迷い込んで来た者と違和感なく会話をすることができるのだ。


[深きもの]
STR11 CON12 POW14 DEX13 SIZ12 INT9
HP12 1Pの皮膚と鱗の装甲
鉤爪25% ダメージ1d6+db0
目撃時SANC:0/1d6

アーティファクトと化した少女の首を求めて、なんとか異界に入って来た勇敢なる深きもの。
だが所詮は一般深きもののため、結界を破ることはできず立ち往生していた。
帰ってきたら儲けもの程度の先見隊なのか、無謀な冒険者なのか、あまり強くはない。
ちなみに少女とは全く無関係の一般深きものであるが、いち早くここに引き寄せられたのは深きものとしてのシンパシーのようなものがあったからなのかもしれない。


・深きものの混血種
株式会社アークライト『クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム』初版、KADOKAWA、2016年、99ページ。

・深きもの
株式会社アークライト『クトゥルフ神話TRPG』初版、KADOKAWA、2015年、188ページ。
株式会社アークライト『クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム』初版、KADOKAWA、2016年、98ページ。

 


◆◇◆ 導入 ◆◇◆
 爽やかで少し生臭いような風が吹き抜ける。ざざ、ざぁー、ざぷん、と不規則に波が揺れ弾ける音が辺りに響く。
 空のてっぺんから太陽がギラギラと照りつける中、ざりざりとした砂の感触を踏みしめながら、あなたは砂浜を歩いている。
 散歩だろうか、気分転換だろうか、小旅行だろうか、何かから逃げて来たのだろうか。何にせよあなたは、道路から階段を下りてこの海辺へと足を運んだ。
 日差しが強く気温も高い正午、遊泳禁止の海岸にはあなたしかいない。遠くの車道から自動車の走行音が聞こえ、遠くの空では海鳥が鳴いている。

 波のあぶくが生まれては消え、遠くの海面が陽の光を反射しきらきらと光るのを見ていた時、不意にあなたの背後から、ざり、と砂を踏む音が聞こえた。

「やぁ、こんにちは。いい風だね」

 見ればそこには一人の少女が立っていた。
 彼女は、深い深い海の底のような黒い髪と、眩しいほどに白いセーラー服を風になびかせながら、ニコリと笑った。

現在は正午。日差しが強く気温も高いためか、PCと彼女以外に人はいない。
以降場面ごとに勝手に時間が進むが、それは心象風景による場面転換のようなものであり、このシナリオに時間制限はない。

PCやPLがこの砂浜や周辺について気にする場合は、任意のタイミングで<アイデア><知識><オカルト><目星><聞き耳>などで判定させるといいだろう。
どの技能でも出る情報は同じだが、情報の入手経路が異なる。
それぞれ「こんな噂を思い出した」「以前小さなニュース記事を目にしたことがある」「この辺りには神隠しの噂があるらしい」「ここまでの道中で注意書きのビラを見ていた」「ここに来る前にすれ違った地元民の話を聞いていた」などとするといいだろう。
情報の内容は「この辺りの海では、たびたび溺死者や行方不明者が出ることがある。誰もが一人でこの辺りを訪れていたらしく、溺死者は必ず砂浜に打ち上げられた状態で発見される」というものだ。

 

◆◇◆ 浜辺 ◆◇◆
少女と出会った時点で、PCは異界に片足突っ込んだような状態になる。
そのため浜辺から出られなくなり、先程まで聞こえていた自動車や海鳥の音も聞こえなくなる。

<聞き耳>
 時折磯臭い風が吹き抜ける音や、ざざ、ざぁー、ざぷん、と不規則に波が揺れ弾ける音が辺りに響いている。
 しかし先程まではそれらに混ざって聞こえていたはずの、自動車の走る音や海鳥が鳴く声は、一向に聞こえてこない。
 海の音。それ以外は不気味なほどの静寂に包まれている。
 SANC:0/1。

・浜辺から出ようとする、少女が示す方以外へ歩いてみる
 おかしい。確かに足は進んでいるはずなのに、どこまでも砂浜が続いている。
 ふと足元を見れば、落ちている貝や打ち上げられた海藻、突き出た流木に覚えがある。
 最初に少女と会った場所に、どれだけ歩こうが戻されてしまっているようだった。
 SANC:0/1。


少女と話をしていると、一緒に浜を歩くことを提案される。きっかけや理由はなんでもいい。
少女の目的は、浜の外れにある小屋にPCを連れて行くことである。
以下は例。
「こうも暑いと病気になってしまいそうだね。この先に私の家があるんだが、冷たいお茶でも飲んでいくかい?」
「おや、そっちに行くのかい?実はね、この先に私の家があるんだ。一人も退屈だし、一緒に歩いてくれるかい?」
「浜から出られない?それは困ったね……。なら、向こうに行ってみないかい?私の家に、何か助けになるものがあるかも」

[少女]
 深い深い海の底のような黒い髪と目を持ち、中性的でミステリアスな雰囲気を漂わせる少女。
 長く艶のある黒髪と白いセーラー服を潮風になびかせており、色白な裸足の脚と白魚のような指先を持つ腕が、強い日差しを眩しいほどに反射している。

PCに対して積極的かつ友好的に関わろうとしてくる。
PCがお喋りな場合は、一緒に会話に花を咲かせたり、聞き上手に徹したりする。
PCが会話をしたがらない場合は、一方的に独り言とも取れるようなことを話したり、ただ静かに浜を歩いたりする。

少女の目的である「浜の外れにある小屋にPCを連れて行くこと」ができればいいので、会話自体はそこまで重要ではない。
しかし自分の首を悪用されないことやそれによる世界への影響を懸念するような性格であった以上は、極力温和にことを済ませたがっている。
警戒させずに協力させたい、悪用を考えられないようにある程度の情を湧かせたい、といったところが狙いだろう。

この少女には思考や感情というものは存在しない。
彼女が持ちうる古今様々な知識の中から、最も友好的かつ不和の少ないような言葉を選び、会話を構築しているだけにすぎない。
そのため<心理学>を使っても、本心を探るようなことはできないだろう。しかし出目が良ければ、人間としての機微が欠けているような違和感を感じ取ることができるかもしれない。
同じように<説得><言いくるめ><信用>などもあまり意味をなさないだろう。ちょっとした会話の流れであればそれらを使って操ることができるかもしれないが、彼女の主目的である「小屋への移動」を阻止することは不可能だ。

とにかく好きなだけ中性的ミステリアス美少女RPができるポイントである。KP・PL双方は存分に楽しんでほしい。

・台詞サンプル
「私のことは、そうだね……カイ、と呼んでくれたまえ」
「家と言っても、結構ボロボロで手狭なんだけどね。ちょっとした小屋を間借りしているんだ。本を読んだりして一人静かに暮らすには、ちょうどいいところだよ」
「そういえば昔、この辺りには村があったそうだよ。たしか……トミサキ村と言ったかな。小さな漁村だったらしいんだけど、大嵐で荒れた波によって、全て海に呑まれてしまったらしいんだ。海は危険だからね……不用意に近付かない方がいいよ」
「なんでそんなことを知ってるかって?ふふ、近所のおばあさまに教えてもらったのさ。ご老人の長話というのも、案外ためになるものだよ?」
「ああ、そうそう、家の先に崖があるんだけれどね、大分ボロボロになってきていて危険だから、行く時は気を付けるんだよ」
「本を読むのが好きなんだけどね、やはり夏場は熱と湿気で本が駄目になってしまう気がして、外で読むのをためらってしまうよ。電子化も考えてはみたけれど……やはり、あの紙を捲る感じが好きなんだ」
「よくこの辺を散歩しているからね、裸足でも慣れたものなんだ。ほら、貝殻を踏まないように歩くのもお手の物、だ」


[海]
海に足を入れると、水にまとわりつかれるような感覚がして非常に動きづらくなる。
歩いて出ることはできるが、足がつかなくなった瞬間に水中へ引きずり込まれて溺れ死ぬことになる。
これは出ようとする者を逃さないためというより、海を経由して異界内へ入ってこようとするものを拒むためだ。
ただし、よほど泳ぎが上手い水棲生物ならば入ってこれてしまうかもしれない。実際、崖下にいる深きものは海からやってきたようだ。多分水泳にクリティカルしてる。
とはいえたとえ人間が<水泳>でクリティカルを出したとしても、人間程度の力ではやっとの思いで浜まで泳ぎ着くことができるか、さもなくばより沖へ出たところで力尽きて沈んでしまうかになるだろう。
海辺のシナリオだが<水泳>を推奨技能としていないのは、泳ごうとすれば簡単に死んでしまうからである。

さて、PCは異界に片足突っ込んだ状態になると前述したが、それでもここから生きて出ることはできない。
ただし、この時点で海に入って死ぬことで現実の海に死体が流れ着く……という方法で脱出することは可能が、その場合は当然PCロストとなる。⇒END5


[しばらく歩くと]
 少女の案内に沿って歩いていくと、浜辺の景色が少しずつ変わっていき、次第に前方に小屋のようなものの姿がハッキリと見えてくる。
 さらに向こう側には崖が砂浜を遮るように大きく迫り出しており、小屋の裏手からは崖上へ続く道が伸びている。

 


◆◇◆ 小屋 ◆◇◆
 小屋の前に着く頃には、辺りを橙色の夕日が包み込んでいた。
 昼過ぎから夕方まで歩いて来たにしては、不思議なほどに疲労を感じていないし、実際それほどに時間が経ったようには感じないだろう。

 小屋は扉と小さな窓が付いた簡素な作りをしており、壁板がところどころひび割れていたりして非常に粗雑に見える。
 扉には外から南京錠をかけておけるようになっており、居住用というより漁師小屋のような印象を受けるだろう。
 その南京錠は外れており、辺りにはそれらしいものは見当たらない。

ここで夕方になるが、実際に時間が進んでいるわけではない。
これは少女の心象風景のようなもので、場面ごとに時間が勝手に変わる。小屋から出て崖へ向かおうとすると夜になる。

小屋について少女に訊くと「わけあって間借りしている」「流石に寝食は別のところを借りてるよ」などと当たり障りのない返答をする。
実際は生前の少女がよく閉じ込められていた場所である。南京錠はもう必要がないため存在しない。少女が持っているということもない。安心。
現世にはもう存在していない。

少女が先に小屋へ入って招き入れるなり、先にPCを小屋へ入らせるなりして、PCが小屋に入った段階で少女の姿は消える。
PCを小屋へ案内するという役目を終えたからである。以降はお助け的に登場するだけで、再び彼女と言葉を交わすことはできなくなる。
PCが少女を探そうとするならば、小屋の探索を促すか、今後少女は現れないことを伝えてしまってもいいだろう。


[室内]
 小屋に入るとそこは埃っぽく、あちこちに雑多に物が放置されており、手入れされていない印象を受ける。
 物置として使われているのだろうその空間は、とても人が居住できるようには見えない。
 汚れて曇った小さな窓と壁板のひび割れから夕日が差し込みはしているが、室内はかなり暗い。

 室内には、扉近くの小さな棚、その正面の壁を埋めるような大きな棚、大工仕事などをするための大きな台がある。
 壁には縄や網が乱雑にかけられていたり、床には大小様々な木箱や竹籠、よくわからない漁師道具のようなものが放られていたりもする。

 また、確かに共に小屋へ入ってきたはずの少女の姿が見当たらない。小屋の外にも気配がなく、煙のように消えてしまったかのようだ。


[壁]
 縄や網が乱雑にかけられており、折れた釣り竿が立てかけられている。


[床]
 大小様々な木箱や竹籠、よくわからない漁師道具のようなものなどが放られている。
 雑然としており、かろうじて動線だけは確保されている。

<目星>
・古い新聞の切れ端
 いつのものかは分からないが、古い新聞記事の切れ端が落ちていた。
 小さな枠の中では、大嵐により冨海岬村(とみさきむら)という一つの村が壊滅したことを報せている。

この海辺にかつてあった村のことだが、現在では地名が変わっているためピンとこないかもしれない。
少女からこの辺りにあった村のことを聞いていない状態で、村について知りたい場合は<歴史><知識>等で判定するといいだろう。


[小さな棚]
 扉近くに置かれている小さくボロボロな棚。
 棚の中はガラガラで、大ぶりのランタンと細長い木箱だけが置かれている。

・ランタン
 大ぶりで無骨なデザインの、燭台のランタンだ。
 しっかりとした作りで取っ手部分も頑丈そうなため、古そうな見た目だがまだ使えそうである。
 蝋燭も使いさしではあるがまだ充分に使えるだけは残っていそうだ。

・木箱
 木箱には正方形に近い区画と長方形の区画とがあり、正方形の区画には持ち手の付いた落し蓋がされている。
 落し蓋と取ると、中には小さく黒い木片が敷き詰められている。
 長方形の区画には持ち手の付いた金属と手の平に握り込めるほどの石、薄い木の板が収められている。

<歴史><知識>(リアル知識可)
これは火口箱(ほくちばこ)または火打箱などと呼ばれる、火打石と火打金を使って火を起こすために必要な道具一式を入れる箱である。
火を点けるためには、火打石と火打金を打ち合わせて生じる火花を、正方形の区画に入った火口(今回は炭)に点火させ火種を作り、その火種を附木(薄い木片)に移し、炎にする。
そして移し終わった火種を消すために、落し蓋で火口を押し潰す。

<DEX*5>に成功することで火口箱を使用し火を起こして、ランタンの蝋燭に火を点けることができる。


[大きな作業台]
 様々な傷や汚れが目立つ、大きな作業台だ。
 工具や木片などが散らかっているところから、ここで大工仕事をしていたのだろうことがうかがえる。

<目星>
 作業台の影に、光を反射して輝く小さな物が落ちていることに気が付く。
 見るとそれは、鈍い銀色をしたジッポライターだった。
 使い込まれていたような傷や汚れはあるが、周囲にある物と比べると新しいように感じるだろう。

以前ここに迷い込んだ人間の落とし物。当人はおそらく崖下に転がるうちの一体になっている。
判定無しで、ランタンの蝋燭に火を点けることができる。


[大きな木棚]
 急ごしらえに作られたような、歪ながらもしっかりとした作りの木製棚。
 木箱や竹籠 漁師道具のようなものや、ブリキのバケツ、トンカチやノコギリのような工具など、様々なものが雑多に置かれている。

<目星>
 ガラクタの隙間から、紙の束が覗いていることに気が付いた。
 手に取って見てみると、それは日本語で手書きされた、古い日記か手記のようだった。

技能に失敗した場合は、透けた少女が現れて手記のある場所を指さして教え、そのままふっと消える。SANC:0/1。

・手記
 近代的な手書きの日本語で記されているようだ。
 紙も古くなっていて傷んでいたり、文字が滲んでしまっていたりする。
 要点をさらって読むだけでも一苦労だろう。

<日本語>や<図書館>などに成功することで、要点をさらって読むことができる。
失敗しても、単語を拾って意味を推察することができたというような処理をして、必要情報は出すこと。

<日本語>や<図書館>などに失敗した場合は、おおよそ以下のことが分かる。
 冨海岬村で拾われた捨て子の少女海子は、魚と話すなどの奇行を見せるようになり、村人たちから気味悪がられていた。
 村人たちは海子を人魚だと考え、小屋に閉じ込めたり暴力を振るったりした。
 村では人魚の肉を食べると不老不死になるという噂が信じられるようになった。
 村で宴が行われ、人魚の肉を削ぎ落とし、村人皆で食べた。
 残った身体は燃やして灰を海に流し、頭部だけは崖下の祠に祀ることで供養とした。
 やがて海が荒れるようになり、人魚の祟りを恐れて祀った頭も燃やして灰を海に流そうとしたが、祠に近付くことができなかった。

<日本語>や<図書館>などに成功した場合は、以下のことが書かれていたことが分かる。
 この手記を書いたのは、冨海岬村という小さな漁村に住む男のようだ。この村ではある時、海辺に捨てられていた幼子を拾ったようだった。
 捨て子は女の子で「海子(ウミコまたはミコ)」と名付けられ、大切に育てられていた。しかしそれは始めの内だけで、海子は大きくなるにつれて「魚と話せると言う」「海に向かって不思議なうたを歌う」「海に帰りたいとこぼす」といった奇行を見せ始めたことで変わっていった。
 気味悪がった村人たちは海子を海辺の小屋に閉じ込めるようになる。また、海子のことを「流れ着いた人魚」だと考えるようになっていった。
 村人たちは事あるごとに理由をつけては海子を小屋に閉じ込め、時には嫌がらせをしたり暴力を振るったり、食事を抜いたりすることもあったようだった。海子は文句も言わず、ただ静かに日々を過ごしたらしい。
 そうして月日は流れ少女が美しい娘に育った頃には、聡明な頭脳と強い精神力、そして美しい容姿を兼ね備えた海子が人魚であることを、村の大半の者が信じて疑わなくなっていた。
 そしていつの間にかどこかから流れ着いた噂が、村に浸透していった。それは「人魚の肉を食べると不老不死になる」というものだった。
 しばらくして村では宴が行われた。祭壇を模した長卓に人魚を寝かせ、その脚から順に肉を削ぎ落とし、村人皆で食すというものだった。
 人魚は悲鳴も上げずにじっと耐え、やがて事切れた。後には、眠るように瞳を閉じた美しい少女の相貌だけが残された。
 肉の無くなった身体は解体され燃やされ、灰は海へと流されたが、その頭部だけは供養として崖下に作った祠に祀ったそうだ。
 人魚を食らい、供養してから一年ほど経った頃に、海が酷く荒れるようになったようだった。波が高く漁に出られない、高潮によって海辺の建物が浸水した、といったことが続いたらしい。
 村人たちはこれを人魚の祟りではないかと恐れた。それと同時に、崖下の祠に祀ったその首を、身体と同じように燃やして灰を海に流した方がいいのではないかという意見が持ち上がった。
 しかしその頃には海は酷く荒れ、崖下の岩場まで近付くことすらできなくなっていた。

 ……ここで手記は終わっている。
 かつてここにあったとされる村では、しかし文字が読めるようなそう遠くない時代に、迫害や虐待、迷信によるカニバリズムなどが行われていたらしい。
 そしてその被害者は、あの少女だったということなのだろうか。彼女はもう、既にこの世の者ではないということなのだろうか。
 SANC:1/1d6。

この後、村は嵐による高波に襲われて壊滅した。家も人も何もかもが無くなり、少女や祠について知る者もいなくなった。
祟り云々についてはただの偶然だ。もしかしたら首の力を欲した何者かの仕業かもしれないが、そこに少女の意思は介在していない。

少女は己が持つ力とそれを狙うよからぬ者について懸念していた。
そのためには遺体を全て灰にして、使えなくしてしまうのが一番だと考えていたが、村人たちによる「供養」によってそれは叶わなかった。
だからこそ今、人を呼び込むことで残った遺体を燃やして灰にしてもらおうとしているのだ。

少女の名前は「海子」「ウミコ」「ミコ」と表記に揺れがある。読み進めるにつれて「ミコ」が増えていくことから、呼んでいるうちに転じていったのだろうことが推測できる。この点についてPCやPLが気にするようであれば<アイデア>や<日本語>などで判定させるといいだろう。

 


◆◇◆ 崖 ◆◇◆
 崖へ向かおうと小屋から出ると、辺りはすっかり暗くなってしまっている。
 小屋の裏手から崖上へ続く道が伸びているが、月や星の輝き以外に灯りはない。
 道は舗装されていない登り坂で、暗いままだとつまずいたり転んだりするかもしれない。

ランタンで照らさずに進む場合は、道中で一度<幸運>を振る。
成功した場合は何事もなく崖上へ着くが、失敗した場合は転んでしまい1ダメージを受ける。
もしも崖上へ到着してからランタン無しに小屋へ戻る場合は、また同じ処理をする。
この後もランタンが必要なため、始めのうちからなるべく持って行かせてあげてください。

多少は月と星の明るさがあるため、ちょっとした描写は灯りが無くても出していいかもしれない。要柔軟な対応。
もし空を気にするようであれば、一般的な夏の星空であることが<天文学>などで分かる。

海を経由して崖下へ向かうことはできない。浜辺で海に入った時と同じように、水にまとわりつかれて溺れてしまうからだ。
足の付かないような水深まで進んでしまったら、<水泳>を使って岸へ戻らない限り、溺死してしまう。
この段階で海に入って溺れ死んだ場合は、死体が現実に流れ着くこともなくPCロストする。⇒END4


[崖上]
 でこぼことして歩きづらい斜面を登り切ると、暗いながらも崖のかたちが分かった。
 先程まで居た砂浜を遮るように迫り出した部分から、抉るように湾曲して弧を描き、窪んでいるような形状になっている。
 今通ってきた道から薄っすらと道が続いており、その先を見に行くならば、岩肌に沿って掘り作られたような階段が現れる。
 崖下を見るならば、10mほどの高さの先に岩肌に沿って湾曲した岩場があるようで、三日月のようなかたちをしたそこに時折波が打ち付けている。
 ゴツゴツとした岩肌と辺りの暗さのせいで、祠があるという洞穴がどこにあるのかは分からない。

・階段
 崖の岩肌に沿って掘り作られたような岩の階段が、暗い海へと誘うように続いている。
 無骨でゴツゴツとしている上に、長年潮風や波に晒され続けたのだろうボロボロ具合で、非常に足場が悪い。
 また下の岩場も大小様々な岩が不規則に並んでいる状態のようで、高さも10mほどある。落ちたらただでは済まないだろう。

崖下に下りるためには、この階段を使うしかない。
砂浜は崖に遮られており、海を経由しようものなら溺れて死ぬからである。

安全に下りるためには、<DEX*5><忍び歩き><登攀>のいずれかに成功する必要がある。
成功すれば無事に岩場まで下りることができるが、失敗すると足を滑らせて岩場に落下してしまう。

ランタンなどの光源を持っている状態で失敗した場合は「なんとか岩場にしがみついて落下は免れたが、ランタンを落としてしまった」という処理の後、もう一度判定に挑戦することができる。
幸いなことに落としてしまったランタンの火は消えていないため、下りれば回収することができる。これも一応少女の加護のようなもの。
また、ランタンを持っていない状態(落としてしまった場合も含む)では、暗く足元が定かでないため、判定に-20の補正がかかる。

落下時は3d6+2のダメージを負う。これは落下した高さによる分と、不揃いな岩に身体を打ち付けてしまう分である。
ただし、落下した歳に<跳躍>に成功することで1d6ダメージの軽減ができる。これは落下に備えることができたためである。
また、<幸運>に成功することで1d2ダメージの軽減ができる。これは比較的衝撃の少ない場所へ落ちることができたためである。平らな岩の上とか、先に落下していた死体の上とか。

落下して気絶した、もしくはHPが0以下になった場合は、PCロストとなる。⇒END3


[崖下]
 岩場へ下り立つと、ゴツゴツした岩の硬く不均一な感触を踏みしめることとなる。
 風がほとんど通らないのか、湿った磯の香りで満ちているその場には、どぷん、ちゃぽん、と波が岩に当たって砕ける音が響いている。
 不意に足元を何か小さなものが這って行く気配を感じる。それは先程下りてきた階段を逆行する方向に、岩場を駆けて行った。
 そこには、何かが点々と落ちており、その上を何かが蠢いているようだった。
 灯りで照らしただろうか、目が慣れてきたのだろうか、その光景は否応なしにあなたの目に入ってくる。顔を背けようとも、辺り一帯にそれは転がっていた。

 それは、人間の死体だった。
 崖の上から、或いは階段の中途から、落ちたのだろう人間たちが、抜け殻のように辺りに転がっている。
 身体のあちこちがひしゃげ、本来ならありえない方向に腕や脚や首が捻じ曲がり、ぽっかりと空いた眼窩はただ虚空を映している。
 まだ新しそうなものから腐敗が進行したものまであるが、不思議と磯の臭い以外はしなかった。
 そしてその死体の上を、幾本もの脚を蠢かせながら大小様々のフナムシが這い回っている。
 その傍らでは、闇に紛れた真っ黒なカラスがその丸いガラス玉のような目だけをギラギラと輝かせながら、悠々と死肉を啄んでいる。
 生命を繋ぐサイクルがこの狭い岩場で行われている。しかし、これはどこか、無機質なように感じるだろう。
 SANC:2/2d4

フナムシやカラスは少女(の首)の化身であり、死体を食べることで現代の情報を収集している。
このため少女は、現代の人間が見てもそこまで違和感のないようなふるまいができるのである。
この空間では時間は経過しないが、少女の中にあったのだろう死体は腐りフナムシやカラスに食べられるという認識が、部分的に再現されている。
そのため、これらの現象に生命としての意味は存在していない。


[洞穴]
 崖の岩肌を見ていくと、大きく窪んで影になった場所がある。
 おそらくそこが洞穴であり、その先に例の祠があるのだろう。

<聞き耳>
 洞穴の方から、何かを叩くような音が響いていることに気が付く。

 洞穴の入り口に近付いていくと、人影のようなものが動いていることに気が付くだろう。
 いや、人間のような背格好をしているが、けして人間ではないことがすぐに分かる。
 それは布を纏っておらず、その身体は灰色がかった緑色をした光沢のある皮膚と鱗に覆われていた。
 頭髪と耳のない頭部は背後からでも異質さを醸し出しており、よく見ればその顔は人よりも魚に酷似している。
 魚人のような怪物はあなたには気付いていない様子で、水かきのついた手を振るい、洞穴の入り口の何もないように見える空間を一心に叩いていた。
 SANC:0/1d6。

<目星>
 怪物が叩いているあたりで何か、ひびの入ったガラス板のようなものが、周囲の光を反射したように見えた。

洞穴入り口に張られた祠を守るための結界を破ろうと頑張っている深きものが一体いる。近付かない限りは気付かれない。
結界は長い時を経て大分ボロボロになってきているが、未だに深きものの力では壊せない程度には力を保っている。
もちろん人間程度の力で結界を壊すこともできないが、唯一火を点けることで結界を壊し、かつ少女の首を葬ることができる。
なお、崖上から洞穴へと火を投げ込むことはできない。高さがある上に洞穴は壁面に対して窪んでおり、岩肌に複雑な起伏もあるため上から狙って物を投げ入れることは不可能だ。

近付くと深きものに気付かれ、戦闘に発展する。
<忍び歩き>で近付けば不意を打てる。この場合、灯りを消す必要はない。(処理が面倒になるので)
深きものとの戦闘に破れた(気絶した、HPが0以下になった)場合はPCロスト⇒END2

結界に火を点けさえすればいいため、深きものと戦闘する必要も、倒す必要もない。
戦闘発生前後どちらでも<DEX*5>に成功すれば、深きものの横をすり抜けて結界に近付くことができる。
直接火を点けに行かずとも、火の点いたランタンを結界目掛けて<投擲>することも可能だろう。
ただしこの場合は外すリスクもある。<投擲>に失敗した場合は<幸運>によって火が消えてしまうか判定するといいだろう。
なお結界が阻むため、洞穴の中に入って祠に直接火を点けることはできない。


[結界に火を点けた]
 結界に火が点いた。
 何もないように見えた空間に、薄く透き通ったガラス板のようなものが現れ、火が広がるにつれてひび割れが広がっていく。
 ほんの一瞬で火の壁が立ち塞がったかと思ったその時、立ち上る炎と共に結界が弾けた。
 爆風があなたの身体を塵芥のように、遥か後方、海へと吹き飛ばす。
 それに逆らうように、うねる炎が洞穴の中へとなだれ込む。

 あなたの身体が海面へと叩き付けられる直前、刹那。
 洞穴から炎が噴き上がり、燃え盛る黒いなにかが天へと翔けて海へと向かう。
 それを認識すると、あなたの意識は闇へと沈んでいく。
 深い海の底のような闇の中に、長い黒髪が揺れた気がした。
 あぶくが弾けるような曖昧な声が聞こえて、あなたは意識を失った。

「ありがとう、やっと自由になれた」

深きものが生きてる場合はPCと一緒に吹き飛ばされてるかもしれない。
結界が破れた後は炎と共に少女の首が空を舞い、灰になりながら海へと落ちていく。
これによりやっと少女は開放され、今後あの海辺で人が行方不明になることはなくなるだろう。⇒END1

 


◆◇◆ ED ◆◇◆
本シナリオでは、不特定多数が閲覧できる場での【生還orロストの報告はOK】だが【エンディングナンバーの報告はNG】とする。
PCの行動・選択によってエンディングは5種類に分かれる。うち4つはPCロストとなる。

・エンディング分岐条件
END1:崖下の洞穴に張られた結界に火を点けることで少女を葬った場合
END2:深きものとの戦闘に破れた(気絶した、HPが0以下になった)場合
END3:崖から落下して気絶した、もしくはHPが0以下になった場合
END4:夕方と夜の空の時に、海に入って溺死した場合
END5:昼の空の間に、海に入って溺死した場合


[END1]
 爽やかで少し生臭いような風が吹き抜ける。ざざ、ざぁー、ざぷん、と不規則に波が揺れ弾ける音が辺りに響く。
 空のてっぺんから太陽がギラギラと照りつける中、ざりざりとした砂の感触を踏みしめて、あなたは砂浜に立っている。
 日差しが強く気温も高い昼過ぎ、遊泳禁止の海岸にはあなたしかいない。遠くの車道から自動車の走行音が聞こえ、遠くの空では海鳥が鳴いている。

 波のあぶくが生まれては消え、遠くの海面が陽の光を反射しきらきらと光るのが目に入る。
 少女は現れない。きっともう、どれだけ待っても彼女が現れることはないのだろう。
 一陣の風が吹き抜ける。波が弾ける。
 この広い砂浜に、今はもう、あなた一人だけが立っていた。

 「虚子の海」END

崖下の洞穴に張られた結界に火を点けることで少女を葬った場合はこのエンディングになる。
PCは無傷のまま最初の砂浜に戻ってくる。時間もほとんど経過していない。(1~2時間ほど経っていてもよい)
もし崖を見に行くならば、崖が崩れて洞穴の入り口が完全に塞がっているのが上からでも分かる。
階段は風化し完全に崩れ去っており、下りることはできない。海側から回って確認しても、洞穴の入り口が塞がっていることが分かるだけだ。
しかし少女の首は無事に葬られ、異界も彼女も、これから先起こるかもしれなかった災厄も消え去った。この海はやっと平穏を取り戻したのだ。


[END2]
 どさり、とあなたの身体は力無くその場に倒れ伏す。
 最早指一本と動かされることのない肉体の端から、なにかが上り食み、なにかが止まり啄む。
 異形が結界を叩きつける音がこだまする。岩場にぶつかった波が砕ける。
 時折、ぴきり、みしり、となにかがひび割れ軋むような音が混ざる。
 しかしそれらを認識するための意識はもう、ただ転がるばかりになった肉体には宿っていなかった。
 あなたはただ、周囲に転がる人型の肉塊たちと同じように、ここで朽ちてゆくのだ。

 「虚子の海」END

深きものとの戦闘に破れた(気絶した、HPが0以下になった)場合はこのエンディングになる。
PCは死亡し、その死体は異界に残されることとなる。現世では行方不明として処理されることになるだろう。
新たな迷い人が少女を葬ることに成功しない限り、いずれ結界は壊され、少女の首はよからぬことに利用されてしまうだろう。
これから先の未来に、この地を災厄が襲うかもしれない。しかしそれは、最早PCには関係のないことだ。


[END3]
 酷く鈍く不快な音が辺りに響いた。硬い岩場に肉を叩き付け、骨が軋み砕ける音。
 最早指一本と動かされることのない肉体の端から、なにかが上り食み、なにかが止まり啄む。
 岩場にぶつかった波が砕ける。あぶくが弾けて鈍い音を立てる。
 しかしそれらを認識するための意識はもう、ただ転がるばかりになった肉体には宿っていなかった。
 あなたはただ、周囲に転がる人型の肉塊たちと同じように、ここで朽ちてゆくのだ。

 「虚子の海」END

崖から落下して気絶した、もしくはHPが0以下になった場合はこのエンディングになる。
PCは死亡し、その死体は異界に残されることとなる。現世では行方不明として処理されることになるだろう。
これまでに失敗してきた人たちと同じように、フナムシやカラスに食われ少女の知識の糧となるのだ。
もしも崖以外で肉体的に死亡するようなことがあった場合は、このエンディングを改変して使うこと。


[END4]
 海水があなたの脚に、腰に、胸に、腕にまとわりついてくる。
 それはまるで意思を持つかのように確りと、あなたを海底へと引きずり込む。
 辺りは急速に冷たく、暗くなっていく。
 肺から押し出された空気だけが、泡となってきらきらと光る海面へと上っていく。
 深い深い海の底へ、あなたは意識と共に沈み消えていった。
 あの夏の日差しを浴びることは、もう二度とない。

 「虚子の海」END

夕方と夜の空の時に、海に入って溺死した場合はこのエンディングになる。
PCは死亡し、その死体は異界に残されることとなる。現世では行方不明として処理されることになるだろう。
もしもSAN値が0になった場合は、PCは海に呼ばれていると感じて海に入っていくという処理をして、このエンディングを使うこと。


[END5]
 海水があなたの脚に、腰に、胸に、腕にまとわりついてくる。
 それはまるで意思を持つかのように確りと、あなたを海底へと引きずり込む。
 辺りは急速に冷たく、暗くなっていく。
 肺から押し出された空気だけが、泡となってきらきらと光る海面へと上っていく。
 深い深い海の底へ、あなたは意識と共に沈んでいった。

 数日後、あなたの身体はあの砂浜へと流れ着く。
 しかしそこに、あなたの意識はない。あなたがあの夏の日差しを感じることは、もう二度とない。

 「虚子の海」END

昼の空の間に、海に入って溺死した場合はこのエンディングになる。
PCは死亡し、その死体は波に流され現世側の最初の砂浜に流れ着く。
おそらく事故や自殺による溺死体として処理されることになるだろう。



◆◇◆ 事後処理 ◆◇◆
[SAN報酬]
生還:2d3。

 



◆◇◆ 後書き ◆◇◆
「真夏のクソ暑ギラギラ太陽でキラキラ光る青い海と白いワンピースで中性的ミステリアスお姉さん系黒髪少女と一緒に浜辺を歩いてお話するシナリオ!!!」
という表性癖と、
「友好的に話しかけてくるが別に好意があるわけではなくただその方が合理的だからという理由のみが存在し目的のためだけに動き利用してくる人外」
という裏性癖が掛け合わさった最強のシナリオです。
さらにそこに人魚やらカニバリズムやら生首やら特殊な出自による迫害やら正常の中の異常やらもちょい足ししました。実質パフェです。
他にもゲヘナ、寄せ餌、捨てられた要らない人、自我の欠落、何者でもなくなる、世界からの消失……みたいなイメージがあったりなかったり。

シナリオタイトルは「人間のかたちで生まれたのに人間としての中身を持たない(持つことを許されなかった)子供」の海子と、「人間のかたちをしているだけでけして人間ではない存在」のカイ、「いつか消えるためだけに存在するからっぽな異界と海」みたいなイメージです。

手記の情報を書いてて思ったんですけど、どうも「ゲーム的には失敗した方が嬉しいけど、物語的には成功した方が美味しい」みたいな技能振りが好きみたいですね。
失敗してもクリアに必要な情報は問題なく出る×成功すると追加情報が出て体験に深みが増す……みたいなことをするとこうなるみたい。過去作でもやってる手法なので結構気に入ってるっぽいです。

虚子ちゃん(仮)もといカイあるいは海子は、聡明な頭脳と強い意思と美しい容姿を兼ね備えた最強の女の子です。だからこそ、自分が抵抗することで村に不和を起こしたくないと考え、ただじっとされるがままでいることを選びました。
出自の分からない自分を拾い育ててくれたことに恩を感じていたし、なによりもこの村から見える海が好きだったのです。
だから彼女はあの村を、海を、守りたいと思いました。しかし死んでしまう自分ではどうしようもなかったため、外部の力を借りることにしました。手段を問う余裕はありませんでした。
そのために無関係な人間たちが死んでしまったとしても仕方がないと、少女から発生した彼女は考えるでしょう。もしかしたら少女は悲しいと思うかもしれませんが、もう死んでしまっているため関係がないのです。
少女の意思はシナリオには関係がありません。ただ彼女の目的だけが存在します。
けれどどうか願わくば、探索者の皆様は、ひとりぼっちの彼女と少女を救ってあげてください。

などと情緒的なことを書きつつ、このシナリオのロストエンドって4/5なんですよね。
実際にロストする確率自体はそうでもなさそうだけど、出目次第なところがあるのでよく分かりません。こわいね。
探索者にはなるべく生きて帰って長いこと苦しんでほしい派閥なんですけど、こればっかりはどうしようもなかったです。必然性。諸行無常。
で、生還orロストとエンドナンバーを同時に報告してしまうと、エンディングの4/5がロストエンドなことと同時になんとなくどんなエンドが生還なのかも透けてしまう気がしたので、エンドナンバーの報告を禁止とさせていただきました。念のためね、念のため。

色々と余裕がなかったためテストプレイができていない状態で公開しますので、今後の更新をご期待ください。
また、不明点や疑問点がある場合は遠慮せずご連絡ください。
ここまでご覧いただきありがとうございます。規約とマナーを守って「虚子の海」を楽しんでくださいね!