「ロベリアの花が咲いた日」
作者:有魚神弥

DLpixivbooth
※本文テキストや画像素材はDLから


澱んで濁った土からは、一体どんな花が咲くのだろう。

 

人数:1人(ソロ)
時間:3~6時間
推奨:やさしさ
準推奨:目星、図書館、心理学
発狂:中確率
ロスト:0%

注意:性差別、虐待、殺人、グロテスク等の要素を含みます。

 


◆◇◆ 概要 ◆◇◆
 純真無垢なロベリアの花 咲いてしまったら枯れるだけ

日付が変わる直前に眠りにつく。
気が付くと知らない家の玄関に立っていた。
目の前に続く廊下。
漂う鉄錆臭さ。流れる赤色。
あどけない顔立ちの、痩せぎすの子供。

―澱んで濁った土からは、一体どんな花が咲くのだろう。


そんな感じの導入から、ちびっ子とわちゃわちゃするシナリオです。
優しさと人の心を持った探索者だといっそう楽しめると思います。
なおこのシナリオは性差別、虐待、殺人、グロテスク等の要素を含みます。

相性診断があるのでPC選択にご活用ください。


◆◇◆ 利用規約 ◆◇◆
シナリオ利用規約に目を通し、理解いただいた上でご使用ください。


◆◇◆ 権利表示 ◆◇◆
本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright (C)1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION


◆◇◆ 更新履歴 ◆◇◆
2021.10.30 公開開始。

 



以下本文です。

 

 

 

 

 




◆◇◆ 背景 ◆◇◆
 あるところに、高純度の悪意を求めるイゴーロナクがいました。それはヒトに擬態して、より強くより純な悪意を持った人間を探していました。
 ある日それは一人の子供に出逢いました。ひどく痩せて、ひどく憂鬱で、ひどく不幸な子供でした。それが憐れな子供の柔い心に付け入るのは、とても簡単でした。
 それは子供の心に種を植えました。子供の悪意がいっぱいになると芽吹く悪意の種です。
 そしてある夜、悪意は満ちて、うつくしい花が咲きました。咲いてしまいました。


 秋山聡実は秋山家の長男です。身体的にも精神的にも男性で、賢くて美しい男の子です。
 彼が4歳になる頃に妹が産まれました。彼の両親は女の子が欲しいと思っていたため、妹の誕生によって彼は用済みになってしまいました。それ以来、彼は階段下の収納に追いやられて、そこで生活をしています。父親からは肉体的な暴力を、母親からは精神的な暴力を受けています。妹は兄になど見向きもしません。それがこの秋山家でした。
 しかし秋山家は、表向きは仲の良い家族を振る舞っていました。彼は「いい子だけどちょっと言うことを聞かず、偏食でたまに癇癪を起こすけど、良いお兄ちゃんをしている」みたいな風に言われ、また周囲からもそう思われていました。彼ももちろんそれに従いました。そうする以外、幼い彼には生きていくための術がありませんでした。

 彼は今年の年度初め頃(彼が9歳の春)に、獲物を探して人間に擬態していたイゴーロナクに出遭ってしまいました。イゴーロナクは彼の中にあった妹への強い憎しみ、親への恨み、人々への憤りなどの負の感情を察知し、それらが増幅するように仕向けました。その悪意が小さな心身を蝕み尽くした時に、彼がイゴーロナクへと変わるように仕掛けをしました。
 かくして光を当てられた悪意の芽は急速に成長し、そうして10歳の誕生日、彼は家族を惨殺しました。

 そうして悪意に呑まれイゴーロナクへと変容していく中で、しかし聡い子供であった彼は自分の思考・感情・衝動の不条理さを理解し、それに身を落とすことを止めたいと思っていました。悪の化身として無差別に被害を及ぼす前に、止めてほしいと願っていました。ただ誰かに助けてほしいと――。
 その心が神に届いたか、どこぞの邪神の気まぐれか、なんにせよそれは"夢"というかたちで具現化され、彷徨い、なんの因果か探索者の元へと届けられることになりました。
 そうして探索者は目覚めます。幼く憐れな子供の、壮絶な罪とささやかな願いの夢の中で――。

 


◆◇◆ 共通処理 ◆◇◆
[時間制限について]
朝6~7時くらいにNPCの目が覚めるので、そうすると自動的に夢も終わります。夢が終わると探索者は強制的に帰還します。それがどのタイミングだったかでエンディングは変わるでしょう。
ただ、まあ0時~6時くらいの6時間ほどがあれば探索してお話して決断してって終わるでしょうって思ったので、時間制限は設けませんでした。
PC及びPLが夢の中に残ろうとするとか、END1で帰ろうとしないとか、そういうことになった場合はこの辺を上手く使ってください。


[情報の取得について]
このシナリオの本質及び重視する点は「NPCに対してPCがどのような行動を取り、どのような選択をするのか」です。
なので探索によって情報を得るという部分は厳密にやらなくて大丈夫です。というより、甘めに出していいと思っています。
例えば「机上の本をどんなのがあるのかな~って見ていきます」という行動を取った場合、上から順番に見ていけばそれらの下にスケッチブックがあることには必然と気が付くものだと思うので、その行動だけで<目星>で得られる情報を出していいと思います。
技能はあくまでも目安として設定していますので、振らなくても分かりそうな行動を取ったら情報出しちゃっていいです。
まあ、KPや卓の雰囲気で柔軟に対応してください。

また、全部の情報を出す必要はないです。記憶に関するもの以外は「この家きもちわるいねー!!」ってだけなので。重要情報以外は半分も出れば充分じゃないですかね?たぶん。


[家の中について]
家の中の場所や物は、雰囲気の描写で誰の管理領域・持ち物かがある程度分かるようになっています。
丁寧で几帳面なのは母親、管理はしているが手入れはしていないのは父親、大雑把で粗雑なのが妹。それぞれドリルや日記などの筆跡と一致する雰囲気を持っています。
基本的に家の中の掃除や管理をしているのは母親なので、家全体の雰囲気は母親のものです。
書斎は仕事関係のものが置いてあるため父親以外の立ち入りが禁止されています。そのため父親だけで管理をしており、他の場所とは雰囲気が違います。他にも欠けた陶器や椅子に積まれた新聞などは彼によるものでしょう。
妹はまだ幼いため影響範囲が狭いですが、彼女は物を粗雑に扱うので大体傷が付いていたり、逆にすぐ悪くなり買い換えられて新品かの二択みたいなところがあります。そうでなくても可愛い娘の欲しがったものはすぐ買い与えがちなので、新品だけどやたら傷が多いみたいなことが多くなるでしょう。
描写を追加したりする時には参考にしてください。

 

[NPCの記憶について]
NPCは一時的に記憶喪失になっています。
スタート時点では全ての記憶とほとんどの意識を失っていますが、以下の行動や物事を切欠として記憶を取り戻していきます。

▽探索者と出会う
・自分の名前が「アキヤマ サトミ」であること
・ここが自分の家であること
・父親と母親がいること
・父親と母親に「ここ(階段下収納)に入っていろ」と言われたこと
・ダイニングにある女児の死体に対する漠然とした不快感

▽"女の子"には居場所があること
⇒妹の部屋を見る、愛美という名前を出す等
・自分の居場所がこの家にないこと
・疎外感と孤独感
・ダイニングで死んでいる子供への強い憎しみ(これは訊かれるとか姿を見るとかしないと表にはしない)
・「まなみ」という名前(を持つ存在=妹)への強い嫌悪感

▽母親から精神的な虐待を受けていたこと
⇒寝室に入る+虐待について触れる、日記の内容を話す、日記を読ませる等
・母親から精神的な暴力を受けていたこと
・母親に嫌われ疎まれていたこと

▽父親から暴力的な虐待を受けていたこと
⇒書斎に入る+怪我や傷を指摘する、日記の内容を話す、日記を読ませる等
・父親から肉体的な暴力を受けていたこと
・父親に嫌われ疎まれていたこと

▽善悪、特に自分が抱く悪意に関する部分
⇒子供部屋・寝室・書斎の全てに入る、『善悪と人類史』の裏表紙の裏を見る等
・自分が悪意を抱いていること
・それによってなにか恐ろしいものに変容していくこと

思い出しポイントは漠然とで大丈夫です。これ知ったらまあ思い出してもおかしくないんちゃう?くらいの管理でいいと思います。作者もよく分かってないです。
思い出すタイミングは、なるべくこう、探索者が情報取ってからだと親切です。適宜調整してください。

虐げられることとか、女性(女児)が優先されることとか、今まで嫌だと思っていたことは、思い出せていなくてもモヤモヤするし嫌な気持ちになるし傷付きます。同じように、思い出していなくても「親」に対して漠然とした恐怖感や不安感を抱いています。好きでいたいはずなのに、嫌いになりたくないはずなのに、どうしてか嫌な感じがするみたいな、そんな感じ。

また自身の性別に関する記憶・認識も曖昧になっています。これは「自分で自分は男だと思っているけど、女である方が愛してもらえるのでは」という葛藤からくるものです。
「さとみくん?さとみちゃん?」と訊かれれば「どっちでもいいです」と答えるし、男か女か訊かれれば「わかりません」と答えるでしょう。
一応触れば性別分かるけど、触られることに怯えるのでお勧めしません。信頼度高ければ手を繋いだりハグしたりくらいはワンチャンありますが、性別判別できるようなところまではゆるせないでしょうし、そもそもそんなところ触るような人を信頼できるかといえば……ねぇ?

・情報は出揃っているが記憶を戻していない場合
前提として、探索者と出会って一部の記憶を取り戻したNPCは記憶の欠落を自覚するため、欠けた部分が欠けたままでいることに落ち着かなさを感じています。長かった髪を切ったばかりの時のような、年度明けに教室が変わった時のような、居心地の悪い感覚です。
なので記憶を取り戻すことに対してはわりと積極的になります。家の中の探索に着いて行きたがったり、日記のある場所を開けようとしたり、記憶に引き寄せられるような行動を取ります。「思い出したいか?」と訊けば「わからないけど、思い出せないのはモヤモヤします」といった返答をするでしょう。
逆に思い出していない状態で「これからどうしたいか?」などと問えば「わかりません。記憶もないのに、これからなんて……」といった不安を口にするでしょう。
自分の失った記憶がどんなものかなんて知るよしもないので、モヤモヤとした不安を解消するために記憶を取り戻すことを望みます。どんなものか知った時には、もう記憶は戻っていることでしょうし。

PC及びPLが悩むようであれば<アイデア>を振ってもらって、彼が記憶を取り戻すことがこの状況への手がかりになるかもしれないこと、取り戻すためには彼が自分の記憶と向き合う必要があるのではないかということをなんかいい感じに教えるといいかなと思います。

また思い出す前にダイニングを見ても、両親が喋っている、出入り口付近に転がっているものに嫌な感情が湧く、ということしか分かりません。夢は醒めていないので、彼の望むものとしか理解できません。それに父親と母親が彼を無視するのはいつものことなので反応がなくてもおかしいと思いません。何より、彼はただ忘れているだけで、本当は全て知っているのですから、知っているものを見たところで大して驚きはしませんし、SANチェックの必要もないでしょう。
忘れたいのは殺したことそのものというより、そうなるに至った経緯である「誰にも望まれない自分」と、これからの予感である「何か恐ろしいものに変わっていくこと」なので、殺害現場を見ても記憶を思い出すことはないです。これら二つが合わさった結果の惨劇なので、記憶の根幹は殺害現場にはありません。

 


◆◇◆ NPC ◆◇◆
▽秋山聡実(あきやま さとみ)
STR8 CON10 POW13 DEX13 APP15 SIZ5 INT17 EDU6
HP8 MP13 SAN30 アイデア85 知識30
目星50 聞き耳50 図書館50 心理学50 信用50
日本語50 隠す50 隠れる50 忍び歩き50

・概要
小学校低学年か中学年くらいに見える痩せぎすの子供。
幼く痩せており、また服装も無地の長袖Tシャツに大きめの長ズボンのため性別は分からない。触れば分かるとは思うが、触られることを怖がるのでお勧めはしない。
シナリオ開始時には階段下収納にうずくまっており、ほとんどの記憶が欠落している状態である。

・行動
大人しく大人びた、賢い子供。言葉選びや論理立てが上手く、しっかり者な印象を与える。
しかしおどおどと常に何かに怯えた様子もあり、話すことそのものは得意でなく、声が小さく吃りがち。
基本的に他人に従順で、言われたことには素直に従い、大人しく後をついていく。嫌なことにもハッキリと意見を示せないところも。

というように、行動や言動の基本は被虐待児のものである。
手が向かってくれば叩かれることを予期して防御姿勢を取るし、大丈夫かと問われれば曖昧に笑って「大丈夫です」と答える。質問をされたら「相手が何を求めているのか」を真っ先に考え、その通りの答えを返すか、そうでなければ「わかりません」でごまかす。
内気で気弱で、常に自分が悪いように感じている。相手の顔色を窺い、少しでもまずいと思ったらすぐに謝る。何か考えがあっても、他人に意見することに恐怖を感じるので何も言わない。従順で大人しく、自己が希薄。
たいていは探索者の後を大人しくついていく。根は優しい子なので、探索者が困っていれば助けようともする。信頼度が上がれば質問に答えたり自分から話したりしてくれるだろうが、そうでなければただ従順で大人しい「都合のいい子」でい続ける。

NPCからの<心理学>は適宜振っていいと思います。例えば質問された時に「この質問は望んだ答えを言わせたいものなのか、ただ単純に知りたいだけなのか」を判断するといった場合に振るといい感じかなと思います。

・詳細
両親から不要とされて虐待を受けている子供。
味方という言葉や概念は知っているが"味方"に対する感覚的理解がないため、常に周囲に対して怯え、警戒している。
特に自分よりずっと大きくて物理的にも権力的にも力を持っている大人が怖い。また、力があるくせに自分の状態に気付かず助けようとしないということに憤りを感じている。"大人"は自分を傷付ける恐怖の対象であり象徴である。
妹は自分から居場所を奪ってのうのうと幸せに生きている相手なので、憎んでいるし恨んでいる。また妹に居場所を奪われる原因となった女性らしさや可愛らしさといったものに対しても、同じように憎しみや恨みを抱いている。

しかし嫌いたくて嫌っているわけではないし、理不尽な感情を抱いている自覚もある。普通の四人家族になりたかったが、しかしそうであれる環境ではなかった。好き好んで不幸なわけではないし、望んで無力なわけでもない。どうしようもないことを知りながら、得られるはずもない幸せを望んでいた。ただ産まれる場所が悪かった、それだけのかわいそうなこども。

誕生日は10月30日。シナリオ時点で10歳になったばかり。誕生花はロベリア、花言葉は「悪意」「謙遜」。
身長は120cmあるかないかくらい。一人で本を読んでいることが多いのでEDUはやや高め
信用は「仲良し家族ですよ」「僕は元気ですよ」「とてもいい子ですよ」オーラ。これにより今まで誰も彼やこの家の状態に気付かず、当然助けてもくれなかった。

STR8であんな惨殺をやってのけたのは、イゴーロナクに変容しかかっているため。悪意が膨れ上がったその時に、無意識のうちにイゴーロナクとしての力を使い一時的に異形と化していた。
本来であればその時点で完全にイゴーロナクと成り果てていたはずだったが、未だに人間としての姿と心を保っているのは、ひとえに彼の理性や倫理といった善の心によるものである。
そのため、感情的で衝動的な悪の行いと、理性的な倫理的な善の心が相反して苦しんでいる真っ最中。

・家庭内
家庭の中で、基本的には「いないもの」として扱われている。外向きには一般的な四人家族だが、内向きには幸せな三人家族。
父親からは躾やストレス発散として肉体的な暴力を受けている。服で隠れる場所は主に打撲などの傷や傷痕に覆われている。
母親からは精神的な暴力を受けている。理不尽な八つ当たりを受けたり、「お前なんて産まれなければよかった」みたいな暴言を言われたりしている。
両親の教えに従った妹からは、兄なんていないものとされている。殴られることも悪口を言われることもなく、ただ存在を否定されている。
月に1万円ほどが階段下収納の扉に挟まれて支給されるので、それをやりくりして生活していた。たいていは近所の百円均一ショップで買い物をしており、今回の凶器である包丁もそこで買ったもの。私物の保管場所は彼の部屋である収納内にしか無く、家の中に置こうものなら無断で捨てられていた。そのため、家の中は三人家族かのような状態になっている。

 

▽秋山愛美(あきやま まなみ)
STR,CON,DEX,POW中の上、SIZ,APP下の上、INT,EDU下の下、な気がする。
けしてできた子供ではないが、ただ女児であるというだけで溺愛された子。

ダイニングで惨殺された女児。一家の第二子で長女、聡実の妹。両親からは"女の子"として溺愛されている。兄の存在についてはなんかそんなもんなんだなぁ~くらいにしか思ってない。一緒に遊んでみたいなぁとは思っている。思っているだけ。
わりと脳直脳筋型な、活発ボーイッシュって感じの子。男の子と話が合うし、公園を裸足で駆け回るタイプ。結構がさつ。なんの束縛もなく自由に彼女らしく育っていたら、運動部所属でポニーテールが似合ってちょっと気が強くて男勝りで男女問わず人気があるタイプだったんじゃないかなって作者は思った。

無知による加害、無知による罪悪。あるいは「何もしなかった」という罪。
彼女がただ少しでも「兄という存在に興味がある」「お兄ちゃんと遊んでみたい」といった様子を両親に見せていれば、聡実は「可愛い娘の兄」として重宝されていたかもしれない。

10月4日が誕生日で、つい今月6歳になったばかりだった。なんなら来年には小学校入学を控えていた。
ちなみに10月4日の誕生花の一つ、サルビアの花言葉は「尊敬」「知恵」「良い家庭」「家族愛」。


▽両親
父:秋山草次郎(あきやま そうじろう)
母:秋山佳子(あきやま よしこ)
ダイニングで惨殺された夫婦。
古臭い性別観念に染まり切ったままアップデートする気もなく、子供を個人として見ずただの記号的アクセサリーとしてしか見ていないクソ親共。どうせ親戚もこんなんばっかだよ。クソ。
今回は二人目で止まったけど、どうせ女児が産まれるまで続けてたんじゃない?知らんけど。子供ガチャ。クソ。そもそも「聡実」って名前を付けたのも、女の子っぽさがある名前にして最終手段として娘として育てることを視野に入れてそう。クソ。
人の親になったことが間違いだし最大の罪。クソ。たまごっちとかにしとけ。


▽黒幕
人間に擬態して、高純度の悪意を持った人間を探していたイゴーロナク。
どうしてそんなことをしていたのかは不明。どこかで喚び出されたか、どこぞの好事家の悪趣味か。なんにせよ、この事態を引き起こした要因の一つ。

 


◆◇◆ 導入 ◆◇◆
 今日も一日がつつがなく終わり、寝支度を整えたあなたは寝具に入りほどなくして眠りについた。それは10月30日の日付が変わる直前だった。

 気が付くと、知らない家の玄関らしき場所に立っていた。普通の一軒家という雰囲気の家だ。
 意識が浮上してすぐに気が付くことは、ここが二階建てであることと、鉄錆のような異臭と、廊下に流れる赤い液溜まりである。
 臭気と液体は廊下に面した、おそらくダイニングだろう部屋から流れている。

※服装は外出する時に着ているような普段着。裸足で、持ち物は無いが、眼鏡や補聴器や義肢といった補助具は身に着けている。
※時計の類は全て11時39分で止まっている。これは事件の起きた時間である。


 ダイニングはひと目で"異様"と言える光景をしていた。
 あたり一面が赤く染まりてらてらと鈍く光っており、生臭い鉄錆の臭いが充満している。
 ダイニングテーブルには人影としか言い表せないものが二つ座り、雑談でもしているような雰囲気だ。
 そして、出入り口のすぐ左隣に、赤いものが転がっている。それはピクリとも動く気配がなく、複雑に凹凸し、一見すれば前衛的なオブジェとも思えるだろう。
 それはあまりに非日常的な光景だった。
 SANC:0/1d2。


[死体]
 出入り口付近に転がっているものをよく見れば、布のようなものに気が付くだろう。
 赤く染まりきって元の色は分からないが、可愛らしいフリルのような部分があることが分かる。
 子供服だ、と思ってしまえば、その形が鮮明に浮かび上がる。投げ出された細い二本の脚、水気を吸って重くわだかまるスカート、幾重にも穴の空いた胴、力のない両腕、そして、乱れた長い髪と見開かれた二つの目。
 出血は既に止まったかあるいは流れきったのか、しかし未だに鈍い光を反射する血に塗れた、女の子の死体がそこにあった。
 SANC:1/1d4+1。

<目星>
 子供は仰向けに倒れており、事切れてからもなお何度も執拗に刺されたであろう傷は背中側まで貫通したものもある。
 また大体の大きさからして就学前後の年頃だろうと推測できる。

<医学>
 死亡推定時刻はほんの直前のようだ。また、あまりにも傷が多いためどれが致命傷となったかは分からない。

※死亡直後の空間が夢となり探索者と繋がったので、直前でしかない。

 

◆◇◆ ダイニング ◆◇◆
 あちらこちらに血が飛び散り無残な有様になっていること以外は一般的なダイニングキッチン。
 ダイニングテーブル、テレビ台、電話台、食器棚が置かれており、出入り口向かいにはキッチンが備え付けられている。また右手奥にも部屋が続いているようだ。

・血痕
 女児の死体のあたりはもちろん、ダイニングテーブルの上や下、隣室の出入り口あたりにも血が滴っており、それらを中心としてその周囲まで飛び散っている。

<アイデア>
 滅多刺しにされているとはいえ子供一人分にしては、散乱する血の量があまりにも多いと感じる。

※大人二人と子供一人分なので。


[テーブル]
 四人がけのダイニングテーブル。机上にはテレビのリモコンやお菓子の入った籠が置かれているが、ほとんどが血に塗れてしまっている。
 四脚ある椅子のうち一つには雑誌や新聞などが積まれており、二つには人影が腰掛けている。
 雑誌や新聞を見るなら、古いものは一週間ほど前の、新しいものは10月30日のものであることが分かるだろう。

<目星>
 テーブルの下に、血に塗れた包丁が落ちていた。
 血と脂に塗れており、力任せに使ったような欠けがあることを除けば、比較的新しいもののように感じる。

※このために買った100円ショップの万能包丁
※人影はダイニングテーブルを挟んで向かい合って座っている。物置椅子側が父親、反対側が母親と、その隣が娘の定位置。わぁ三人家族だね!


[人影]
 大人ほどの大きさの人影のようなものが二つ、談笑でもしているように見える。
 それらは赤みの混じった暗い影のような色をしており、小さく不可解な声のようなものを発している。全体的にのっぺりとしており、体型や服装といった概念が存在するのかも分からない。ただ片方は一回りほど小さいように見えるので、そちらは女性なのかもしれない。
 人のようなかたちをしていながら、人のように見えないそれは、不気味に感じられるだろう。
 SANC:0/1d2。

・触る
 人影に触ると、触れているような触れていないような、質感のあるようなないような、温度が伝わるような伝わらないような、存在するようなしないような、そんな不思議な感覚がする。

<聞き耳>
 人影の声に耳を澄ませば、聞き覚えのあるような音がする。
 それは低く唸るような音、甲高い悲鳴のような音、太い絶叫のような音、荒い呼吸のような音、歯を食いしばるような音、そういった音が複雑に混ざりあったような、そんな声を発している。
 SANC:0/1。

※NPCの「あわよくばこのまま昔のような普通の家族に戻りたい」みたいな思いがかたちになった。死ぬ直前の姿が反映されたため血塗れの人影で、死ぬ間際の声や音を発している。ただそこに両親のように在るだけなので周囲のはたらきかけに反応することはない。


[テレビ台]
 普通のテレビ台。一般的な薄型テレビが置かれており、下部の棚には家に届いた手紙だとか書類だとかを保管しているようだ。どれも血が滲みていて、とても読めるような状態ではない。
 また、テレビをつけても砂嵐しか映らない。

<目星>
 棚の部分にランドセルのカタログが置いてある。いくつかに丸が付けられており、そのどれもがピンク色だったりハートや花の模様が描いてあったりフリルがあしらわれていたりする可愛らしいデザインのものだ。また、確認するなら今年最新のものであることが分かる。


[電話台]
 普通の電話台。一般的な家庭用固定電話が置かれている。
 電話の横には写真立てが置かれており、家族三人の写真だろうことが分かる。しかし跳ねた血が中にまで染みており、両親であろう大人の顔と子供の全身は識別が困難になっている。
 また、電話をかけようとしてもどこにも繋がらず、不通の機械音が鳴り続けるだけだ。

※子供が小さな女の子であることくらいはかろうじて分かってよい。写真のシチュエーションは仲睦まじく幸せそうならなんでもいい。両親と妹の写真で、NPCは影も映っていない。二階寝室にあるアルバムと同じ感じ。


[食器棚]
 普通の食器棚。綺麗に洗われた食器が丁寧にしまわれている。ガラスのはめられた扉が血飛沫を遮り、中は綺麗なままだ。

<目星><アイデア>
 大人用のものの中に、可愛らしいピンク色や花柄、ハート柄などのデザインがされた子供用のものが置かれている。
 また、どれも綺麗に片付けられているが生活感は存在し、陶器製の皿の一部が欠けていたり、子供用マグカップの縁に歯型がついていたりする。

※子供用は全部妹ので、NPCのものはひとつも無い。


[キッチン]
 一般的なキッチン。よく料理をする人が使うのだろう、調味料や調理器具が揃っており、綺麗に手入れもされているようだ。

<目星>
 収納の扉には血飛沫が付着しているが、中は綺麗なままだ。また、包丁を収納する部分には全て丁寧に整えられた包丁がしまわれており、抜けはないようだ。

※凶器はここから取ったんじゃないです。

・冷蔵庫
 冷蔵庫の中は一般家庭的な食材や調味料、飲料などが入っており、特に変わった点はないように見える。


[隣室]
 隣室は、元々は居間か客間かなにかだったのだろうが、すっかり物置として使われているらしい。
 乱雑に物が詰め込まれているため奥に進むことは難しく、何が置かれているかも分かりづらい。

<目星>
 最奥にはベビーベッドのようなものが置かれているらしい。白と水色の塗装で、柵からはみ出したモビールには車やロボットがあしらわれている。

※第一子であるNPCが産まれた時に出産祝いかなんかで貰っちゃったやつ。捨てるのも面倒くさいので放置している。妹のベビー用品はちゃんと片付けたりフリーマーケットに出品したりしている。


[廊下・再び]
 改めて廊下を見ると、不自然な血の痕に気付くだろう。
 それは真っ直ぐと伸び、階段下にある収納だろう扉へと繋がっている。

※殺害後に一時的狂気抱えたNPCが帰っていった時のもの。

 


◆◇◆ 階段下収納 ◆◇◆
 フローリングに続く血の跡は、階段下収納の扉の中へと続いている。しかし、不思議と扉やドアノブ自体には血痕は着いていない。

 少々建て付けの悪い扉を開けると、黴臭く埃っぽい澱んだ空気が飛び出してくる。
 手入れをされていない、ともすれば廃墟のような印象を与える部屋の中に、子供が一人うずくまって座っている。


[収納]
 いくらかの物が雑多にしまいこまれた簡素な収納スペース。黴臭く埃っぽい空気が充満しており、隅には埃が積もり白っぽくなっている。
 しまわれているものはどれも数年から十数年は経っているもののように見え、真新しいものは子供くらいだ。
 またあれだけ血の跡が続いていたにも関わらず、収納内には血の痕跡も臭いもしない。

※NPCの記憶と共に状態が戻るため、NPCが記憶を取り戻してから見ると血痕と物が増えている。


[子供]
 子供はあなたに気が付いたようで、おそるおそるといった風に顔を上げた。
 その子は小学校低学年か中学年ほどに見えるあどけない顔立ちをしており、痩せぎすの身体を長袖のTシャツとだぼついた長ズボンで覆っている。幼く痩せており、服装もゆったりとしたシンプルなデザインのものであるため、見た目で性別を判断することは難しい。
 ざっと見た感じでは、血が着いていたり怪我をしていたりする様子はない。

<目星>
 服装のせいで分かりづらいが、相当痩せているように見える。体質ではないとすると食生活が心配になるほどだ。

<心理学>
ちょっとイゴーロナクにちょっかいかけられただけの普通の人間なので(今の所は)、普通に結果は出る。ただ記憶喪失状態だとぼんやりしているので読み取りづらいかも。


探索者が家の中を見て回るなら、一人でいることに不安を覚えている彼はついていきたがる。押し込められてきた場所に留まるのは息が詰まるものだろう。

※もし探索者が包丁を持ったままだったとしても、子供の態度はそこまで変わりません。変わらず怯えています。だって包丁だろうが拳だろうが脚だろうが、刺されたり殴られたり蹴られたりしたら痛いし怖いもの。

 


◆◇◆ 一階 ◆◇◆
 ダイニングへと階段下収納以外に、トイレと思われる扉とその奥にある扉、玄関と二階への階段がある。

[玄関]
 一般的な玄関だ。家中に漂う異臭で分かりづらいが、花の香りの芳香剤が置かれているらしい。
 側面の棚には芳香剤や靴の他にも、靴べらや造花のアレンジメント、スリッパなどが置かれている。
 靴は男女の大人用のものがいくつかと、可愛いスニーカータイプやおしゃれなパンプスタイプなどの子供用のものが置かれている。

 玄関の扉を開けると、外は真っ暗な闇に包まれていた。いや、深夜にしても、街灯の明かりすらないのはおかしいのではないだろうか。よく見れば、そこには何も無いことが分かってしまうだろう。
 そこに在るのは、暗闇ではなく、無だった。
 SANC:0/1。

※窓から外を見ていた場合はSANC免除。

・出ようとする場合<アイデア>
 玄関から出るということは、この家から離れて自宅に帰る、つまりこの夢から覚めるということになるのでは?

※普通に出られるし帰れる。NPCの記憶を戻す前に帰るなら【END:2】へ。


[窓]
 窓にかかっているカーテンを開けて外を見れば、あたりは真っ暗なようだ。深夜だからだろうか。

<目星><アイデア>
 深夜にしても、街灯の明かりすらないのはおかしいのではないだろうか。よく見れば、そこには何も無いことが分かってしまうだろう。
 そこに在るのは、暗闇ではなく、無だった。
 SANC:0/1。

※玄関から外を見ていた場合はSANC免除。


[トイレ]
 一般的な家庭用トイレ。むせ返るような花のにおいの芳香剤が置いてある。


[脱衣所、風呂場]
 普通の脱衣所と一般的な風呂場。
 綺麗に掃除されており、洗濯籠の近くには明るいピンク色をした子供用の踏み台が置いてある。

<目星><アイデア>
 洗面台に置いてある歯ブラシは、大人用が二本と子供用が一本のようだ。大人用のものは青色と橙色、子供用はピンク色をしている。

※ついでに子供用歯磨き粉はいちご味。


[階段]
 二階へ上がるための階段のようだ。側面下部には収納の扉がついている。

 

◆◇◆ 二階 ◆◇◆
 掃除が行き届いており、一般的な家庭を感じさせる。
 トイレと思われる扉の他に、扉が三つある。

[トイレ]
 普通の家庭用トイレ。なんだかよく分からない花のにおいの芳香剤が置いてある。


[階段側の扉=子供部屋]
 花のデザインがあしらわれた可愛らしいプレートがかけられている扉だ。ネームプレートのようだが、名前のパネルが貼り付けられていたであろう部分はこそぎ落とされ、なんと書いてあったか分からない。

※NPCの夢の中なので、憎い名前を無意識のうちに消してしまった。


[真ん中の扉=夫婦の寝室]
 「パパ・ママ」と書かれたシックなプレートがかけられている扉だ。


[奥の扉=書斎]
 特に何の装飾もない、普通の扉だ。

 


◆◇◆ 子供部屋 ◆◇◆
 白とピンクを基調とした可愛らしく女の子らしい子供部屋。室内にはベッド、クローゼット、勉強机、棚、おもちゃ箱がある。
 掃除は丁寧にされているようだが、おもちゃや本、紙ゴミなどが散らばっている部分もあり、雑然とした印象を受ける。

※各物の記名欄を見るならどれも「あきやま まなみ」と几帳面そうな字で書かれている。(母親の筆跡)

[ベッド]
 淡いピンク色を基調とし、フリルのあしらわれた可愛らしいベッド。しかしシーツはよれており、掛け布団は跳ね除けたように半分落下しているし、枕はベッドのほぼ中央に移動している。
 ベッド下にはカラーボックスが置かれ、季節違いの衣類がしまわれているようだ。

※悲鳴に飛び起きたってものあるけど、だいたいいつもこんな感じ。


[クローゼット]
 備え付けのクローゼット。扉の内側には姿見があり、中には様々な衣類が種類別に丁寧に分けてしまわれている。どれも可愛らしいデザインのものばかりだ。
 一部の引き出しは布が挟まってしまりきっていない。中を確認するなら、下着や肌着の入ったものとパジャマが入ったもののようだ。

※適当に引っ張り出して適当に閉めた。

<目星>
 クローゼットの奥に真新しい箱が置かれているのに気が付く。
 中を見るなら、これまた真新しい子供用ドレスがしまわれている。ピンク色を基調としたもので、フリルがふんだんに使われているが華美すぎず、良いレストランへ食事に行く時などに着ていけそうなものだ。
 またそれと揃いの靴やアクセサリーなども同じように丁寧にしまわれている。

・クリティカル
 まだ数度、もしくはほんの一度程度しか袖を通したことがないのか、ヨレやほつれはほとんど無い。しかしよく見ると、裾のほんのわずかな部分に小さなシミができている。

※まさに今月頭の誕生日に買い与えられたドレス。NPCはこれを見ると疎外感を強く感じ、部屋から飛び出して二階廊下で立ち尽くす。ここにいちゃいけないんだ。


[勉強机]
 白を基調とした真新しい勉強机。真新しい筆記用具や本などが雑多に置かれている。
 本は就学前児童向けのドリルや絵本のようで、ドリルはいくらか手がつけられている。
 机の天板には鉛筆やクレヨンがはみ出したものと思われる汚れも付着している。

※鉛筆や小物なんかもきらきらふわふわきゅーとって感じのやつ。

<目星>
 机の上には様々な本が置かれている。
 一番上に置かれたドリルは、未就学児向けで文字や数の練習をするものだ。いくらか手がついており、字は乱雑で粗暴な子供を想像させる。
 それらの下にあるのは絵本のようだ。シンデレラや白雪姫のようなメジャーなものから、女の子が様々なドレスに着替えるものや、デフォルメされた動物たちが楽しげに遊んでいるようなものなど、いわゆる女の子向けとされるものばかりだ。

 そのような本の中に、スケッチブックが紛れていることに気付く。
 捲くって見ていけば、最初の方にはロボットや飛行機、電車、戦隊ヒーローなどが多く描かれているが、途中からそれらはぱたりと消え、代わりにお花やお菓子、お城、お姫様などが描かれるようになっている。
 また大分下の方に埋もれていたため、ここ最近は描いても見てもいないのだろうと推測できる。

<心理学><芸術:絵画など><アイデア>
 前半部分は様々な色を使い楽しげなタッチで活き活きと描かれているが、モチーフが変わってからは型通りのお手本をなぞっているような印象を受ける。
 しかしそれらの絵を見比べると、細かなタッチなどから描いたのは同一人物のように思われる。


[棚]
 子供用のアクセサリーや髪飾り、児童書などが雑にしまわれている。いくつかは収納からはみ出したり、ただ置いてあるだけのものもある。

・児童書
 魔法使いの女の子の冒険物語や、人間の女の子と人魚の女の子の友情物語、様々なお姫様が出てくる短編物語集など、いわゆる女の子向けとされるものばかりだ。


[おもちゃ箱]
 人形やぬいぐるみ、おままごとセットなどのおもちゃが無造作にしまわれている。

<目星><アイデア>
 どれも新しいもののようだが、ぬいぐるみの継ぎ目がほつれていたり、人形の服が破れかけていたり、おままごとセットに細かな傷がついていたりすることに気付く。あまり丁寧に扱われてはいないようだ。

 


◆◇◆ 夫婦の寝室 ◆◇◆
 シックな印象でまとめられた寝室。どうやら夫婦で使っているもののようで、清潔な印象を受ける。室内にはベッド、クローゼット、ドレッサーが置かれている。

[ベッド]
 質の良さそうなダブルベッド。ホテルのもののように整えられている。ふかふか。

<目星>
 ベッドやベッド周りなどに多少のほこりや髪の毛は落ちているが、積もり方などから数日内のものだろうと思われる。定期的に掃除されているような印象を受けるだろう。


[クローゼット]
 備え付けのクローゼット。扉の内側には姿見があり、男女の衣類がそれぞれ丁寧にしまわれている。

<目星>
 物置になっている場所に一冊の厚い本がある。どうやらアルバムのようだ。
 アルバムの写真はどれも乱雑に黒く塗りつぶされている。塗られた隙間から窺えることは、ほとんどが幼い子供を被写体としたものであること、時折父親のような男性や母親のような女性が共に映っていること、子供は体格や服装からして就学前の女児らしいことだ。
 捲っていくならそのようなページが続き、途中から何も入っていないまっさらなページに変わる。アルバムとしては未完成のようだ。

※娘をメインに父、次いで母。そして親族や友人らしき人物も映っているものもある。NPCの年頃や背格好の人間は映っていない様子=撮ったとしても邪魔だから捨ててる。一階ダイニングの写真と同じ感じ。
※塗りつぶしは書斎で見つけた『善悪と人類史』と同じような感じ。


[ドレッサー]
 やや大ぶりの三面ドレッサー。化粧品やケア用品が整然と置かれている。
 天板下の引き出しには、鍵付きの日記帳と色付きのボールペンがしまわれている。

<目星><隠す>
 ドレッサーの側面のやや見づらい部分に、小さな隠し収納があることに気付く。
 収納を開ければ、小さな鍵がしまわれていた。

<鍵開け>
 簡単な作りのようで、比較的容易に開くことができた。

<STR*5>
 力任せに錠前の部分を壊すことができた。

・母親の日記
 この家の母親の日記のようだ。几帳面そうな字が並び、ほんの数行にも満たないものからページを跨ぐほど長いものまで、ほぼ毎日書かれている。
 それなりの量があるため、気になる部分をさらって読むだけでも大変そうだ。

<図書館><日本語>
【失敗】
 日々の取り留めもないことをメモしたようなものから夫の愚痴など、内容は多岐に渡っている。
 中でも『愛美』という娘が溺愛されていることが強く伝わってくる。
 対して息子のことはよく思っていないようで、罵詈雑言が書き連ねられた記述もある。

※失敗でも記憶を思い出す分には足りる。なので成功しない方がいいです。成功しないで。

【成功】
 日々の取り留めもないことをメモしたようなものから夫の愚痴など、内容は多岐に渡っている。
 中でも『愛美』という娘が溺愛されていることが強く伝わってくる。
 対して息子のことはよく思っていないようで、罵詈雑言が書き連ねられた記述もある。
 その中から特に気になったものを抜き出していく。

・8月19日(6年前)
お腹の子は今日も元気。今度はちゃんと女の子だといいんだけど。

・10月4日(6年前)
無事に産まれた。名前は愛美。とってもかわいい。

・1月9日(5年前)
あいつはうざったいし、あの人は口うるさいし……愛美だけが癒やしよ。
だいたい産後で育児も大変なのに、クリスマスに年賀状におせちに……いつもどおりの年末年始なんて無理に決まってるじゃない!
あの人は私に理想を押し付けるだけで自分ではなんにもしないし、あいつはお兄ちゃんになっても変わらずうるさくて手がかかる。これだから男ってイヤ。
ほんと、愛美だけが私の味方よ。

・2月17日(4年前)
ああもうほんとイヤになる。バカ息子がかんしゃくを起こしてリモコンをはたき落としたから、愛美が泣いてしまった。幸いリモコンは壊れてなかったし愛美もすぐに落ち着いたけど、ほんと信じられない!あの人がバカを連れて行って何かしていたみたいだけど、知ったことじゃない。悪いことをしたらしかられるものよ。

・10月4日(今年)
今日は愛美の6才の誕生日だった。準備もほとんど私がやったのに、あの人は全部自分がやってやったみたいな顔をしていた。あのバカはこんな日でもずっと辛気くさい顔をしていた。ケーキに夢中になった愛美がマグカップを倒した時も、私が片付けてる間誰も動きやしなかった。男ってほんと気が利かない。
それでも愛美が嬉しそうにしていたから全て吹っ飛んでしまった。おめでとう愛美!プレゼントもとても似合ってた。来年は何をプレゼントしようかな?

※他にも「息子はトイレや風呂のたびにうるさい。男はがさつで困る」とか「娘は元気いっぱいでかわいい。今日は廊下を走った時に転んでしまって焦った」とかそんな記述もある。スペクリで困ったり他の記述を探されたりしたら出すといいと思います。よくないけど。

 


◆◇◆ 書斎 ◆◇◆
 仕事部屋のようだ。片付いてはいるようだが、どことなく埃っぽい感じがする。室内には机、本棚、収納棚が置かれている。

[仕事机]
 ノートパソコンやペン、メモ用紙や原稿用紙などが置かれている。どうやら書き物を仕事としているらしい。

・ノートパソコン
つかない。

※パソコンがつかないのは機械的なものではなく、単に夢の中だから。なのでつける方法は無いです。


・メモ用紙や原稿用紙
 きちんと置かれた原稿用紙はまだ何も書かれていないまっさらなもののようだ。
 ゴミ箱に捨てられたり机上に放置されていたりする書き損じからは、人類学や人類史に関したテーマが記されているのらしいことが分かる。

<アイデア>
 書き損じをぐしゃぐしゃに潰したものやメモとして殴り書かれたものを見るに、人類史をテーマにしたものを執筆中らしい。
 また、文体やテーマの取り方が『善悪と人類史』とそっくりだ。

※これらと日記を両方見たら、筆跡が非常に似ていることが分かる。同一人物が書いているので。


[本棚]
 様々な本が並んでいる。
 ざっと見た感じから、人類史のようなテーマに関する本が多そうだ。

<図書館>
『善悪と人類史』というタイトルの本を見つける。

『善悪と人類史』 著:秋山草次郎
 善とは道義、道徳、倫理的思想に則った理想を指し、対して悪とはそれらを持たずに本能的、感情的な欲求に従うことである。つまり本能や感情に従うことが悪であり、それらを理性でもって制することが善であるとも言えよう。
 古来より人間は自らのコミュニティを築き上げるために、調和を成す行いを善として、調和を乱す行いを悪として定義し、それらを基準に集団をコントロールしてきた。善を行うものは善人として優遇し、悪を行うものは悪人として罰することで、数多ある意識の手綱を一つに集約したのだ。
 善と悪とを定義し、それによって規律を作り、集団をまとめ上げ、発展してきた人類の痕跡は、昨今もいたるところに見られる。その最たる例が法律である。人間は発展しなおも善と悪によって人間をコントロールし、社会というものを形作っている。また日本人が小学校から教えられる道徳の授業や、日本人特有の「バチが当たる」という感覚にも■■■■■■■■■■■■■■

 これ以降の文章は乱雑に黒く塗りつぶされている。それは最後のページにまで続き、裏表紙の内側にはこれまた乱雑な文字が記されている。
『古来より悪こそが世を統べる。法が統べるも罰を恐れる故にこそ。恐れは即ち悪なり。善足れば善たり。悪足れば悪たり。されど人に善の足ること甚だ遠し』

※著者は父親本人。こんな本書いておいて我が子になにやってんだろうね。<図書館>に失敗した場合は「お父さんの本だ」とNPCが見つけても良い。
※イゴーロナクとNPCの意思が紛れ込んで本を塗りつぶし文章を加えた。シナリオ的には「感情に従うことは悪であり、それを理性で制することが善である」「善が満ちれば善に、悪が満ちれば悪になる」あたりが、NPCが陥っている状況へのヒント。


[収納棚]
 仕事で使う資料などが置いてあるようだ。
 内容を確認するなら、人類学や人類史に関連したものが多いことが分かる。

<目星><隠す>
 棚の床に近い部分に、分かりづらいよう細工された引き出しがあることに気が付く。
 開けてみれば数冊の大学ノートがしまわれている。

・父親の日記
 この家の父親の日記のようだ。やや乱暴で大きな字が並び、数日に一日程度の頻度で書かれている。
 それなりの量があるため、気になる部分をさらって読むだけでも大変そうだ。

<図書館><日本語>
【失敗】
 『愛美』という娘が溺愛されている様子がほとんどを占めている。
 合間合間に『佳子』という母親への愚痴が書かれていたり、名前は分からないが息子と思われる子供に暴力を振るうことでストレスを発散しているらしい記述が見られる。

※失敗でも記憶を思い出す分には足りる。なので成功しない方がいいです。成功しないで。

【成功】
 『愛美』という娘が溺愛されている様子がほとんどを占めている。
 合間合間に『佳子』という母親への愚痴が書かれていたり、名前は分からないが息子と思われる子供に暴力を振るうことでストレスを発散しているらしい記述が見られる。
 その中から特に気になったものを抜き出していく。

・10月4日(6年前)
ついに娘が産まれた。やはり娘は可愛い。名前はどうしよう、女の子だったらと考えていたものが丁度いいだろうか。

・10月5日(6年前)
娘の名前が決まった。愛美と書いて「まなみ」だ。愛らしいこの子によく似合っている。佳子も気に入ったようですぐに決まってよかった。あいつは強情っぱりで意見が通らないことも多い。愛美が似てしまわなければいいが。

・2月17日(4年前)
今日は疲れた。アレが突然リモコンをはたき落とし、佳子が「うるさい!壊れたらどうするの!」とわめき、愛美が泣いてしまった。「愛美が泣いちゃったじゃない!」とか言ってた気がするが、お前の大声も原因の一つだと思う。全く、女はすぐにヒステリックになっていけない。アレが不満そうな顔をしていたので愛美からは見えないよう収納に押し込んで数度殴ったら大人しくなった。最初からそうしていればいいものを。

・3月25日(4年前)
あれから何度か殴ってみたが大人しくしている。ストレス解消に使えるかもしれない。やっと利用価値ができたか。しかし跡が見えないように気を付けないといけない。

・10月3日(今年)
明日は愛美の6歳の誕生日だ。パーティーとプレゼントの用意をした。ケーキは明日の昼間に取りに行く。楽しみだ。

・10月4日(今年)
愛美誕生日おめでとう。あんなに小さかったのにこんなに大きく可愛くなって、来年にはもう小学生だなんて信じられない。プレゼントのドレスも気に入ってくれたようでよかった。今度あれを着た愛美を良いレストランにでも連れて行ってあげよう。夢中でケーキを食べていてマグカップを倒してしまう姿がお茶目で愛らしかった。また来年が楽しみだ。

 


◆◇◆ イベント ◆◇◆
[エンド分岐について]
NPCがこのシナリオにおいての善か悪か、どちらに傾いているかでエンディングが変わります。
『善悪と人類史』で示唆したように、このシナリオにおいての善は「理性や倫理でもって悪を制すこと」で、悪は「感情や衝動のままにふるまうこと」です。
NPCはこの"悪"の心でもって一家惨殺をやってのけました。そして"善"の心によってそんな自分を恐怖し、自分の部屋に籠もり、助けを求め、記憶を失いました。シナリオ開始時点ではどちらも持っていない、まっさらな状態です。

NPCは記憶を取り戻すたびに、自動的に悪側へと傾いていきます。何もしなければそのまま悪に傾ききるでしょう。
他にも、彼に暴力を振るうとか、彼を悪く言うとか、嫌がることを続けるとか、彼が今までされて嫌だとか怖いとか思ったようなことをすると、怯えや恐れが強くなり結果として悪へ傾きます。
意図的にかつ(事態解決への)目的なく物を壊したり家を荒らしたりするとか、親や家への悪口を言うとかいった「理性的・倫理的でない言動」も悪側へ傾く要因になります。
また、妹(まなみ)や女性性、一般的可愛らしさへの肯定に対しては、強い憎悪や嫌悪を示すため、大きく悪側に傾くかもしれません。

逆に、彼自身や彼の存在・感情に肯定すると善側へ傾きます。根本にあるのは「認められたい」「愛されたい」「怖い思いをしたくない」「否定されたくない」といった心なので、それらを肯定されることで満たされ、落ち着き、理性的な思考ができるようになります。
他にも倫理的観点から親や家を批判したり、法律によって悪いことは裁かれるとか、何かあったら専門家を頼るとか、そういった理性や倫理の拠り所になることを教えたりしても、善側に傾くでしょう。

例えば、ダイニングの殺害現場に対して「こんなことをするなんて、犯人は許せない」といった発言を探索者がした場合、それに付随する感情やその後の言動によって善か悪かは変わるでしょう。
「君は無事でよかった」「犯人と鉢合わせしたら一緒に逃げようね」「何かあったら守るよ」といったものなら善に、「犯人は見つけたらただじゃ済まさない」「犯人は同じように死んだ方がいい」といったものなら悪になるでしょう。

善側に傾くということは、優しくしてくれたり望むことをしてくれた探索者に対して心を開きつつあるということでもあります。そうした信頼度が高ければ高いほど、NPCは質問に素直に答えたり、恐る恐るながらも意見や気持ちを言ってくれるようになるでしょう。
逆に悪側に傾くということは探索者を親や大人と同じ恐怖の対象として見始めているということになります。信頼できない人物に対しては意見や気持ちは黙ったまま「わからないです」「大丈夫です」でお茶を濁し、口をつぐんでいくでしょう。

それを善として受け取るか悪として受け取るかはNPCだけが決定できます。なので、たとえ探索者が本心から言ったわけでない上っ面の優しさだとしても、NPCが善たと受けたならそれは善になります。彼にとって一番大切なのは「敵ではないこと」なので、彼を害すつもりがないなら、嘘でも心にないことでもかまわないのです。「怖いことをされない」のであれば結構簡単に信頼しちゃうかもしれない。ちょろい。心配になる。

この辺の管理はあえてポイント化とかはしません。というか作者が感覚でRPしてしまうので、厳密な管理は諦めました。よっぽどひどいことされたりド地雷踏み抜かれたりしなければ大抵は善側になるんじゃないかな~とか思ってます。必要ならポイント管理してもいいと思います。

 

[イベント]
※NPCが全ての記憶を取り戻すと以下のイベントが発生する。RPや情報整理などもあるだろうから、詳細なタイミングは適宜調整すること。

・一階で発生した場合
「そんな……うそ……」
 そう声を上げた子供はバネのように走り出した。あっという間に背中しか見えなくなってしまう。
 廊下の先を駆ける小さな音が響いた時、地の底から唸りを上げるような大音響が身体を揺らした。
 それは、日常の中ではおおよそ聞くことのないであろう絶叫、悲鳴、喘鳴、そういった断末魔の狂騒だ。
 あなたは強烈なそれに目眩を覚えながら、それはダイニングから聞こえたものだと直感する。

※一階かつ階段下もしくはダイニングでイベントが発生した場合は、目眩と同時に彼の持ち物とか両親の死体とかが元に戻る感じ。先程まで無かったものが突然現れてSANC:0/1。


・二階で発生した場合
「そんな……うそ……」
 そう声を上げた子供はバネのように走り出した。あっという間に背中しか見えなくなってしまう。
 廊下の先から階段に足をつける小さな音が響いた時、地の底から唸りを上げるような大音響が身体を揺らした。
 それは、日常の中ではおおよそ聞くことのないであろう絶叫、悲鳴、喘鳴、そういった断末魔の狂騒だ。
 あなたは強烈なそれに目眩を覚えながら、それは下階のダイニングから聞こえたものだと直感する。


 ダイニングはひと目で"凄惨"と言える光景をしていた。
 あたり一面が赤く染まりてらてらと鈍く光っており、生臭い鉄錆の臭いが充満している。
 ダイニングテーブルには男性が突っ伏すように倒れており、おそらく背中を刺されたのだろうか、滴る血が足先まで染めている。
 隣室に頭を向け仰向けで倒れる女性は濁った目を見開き、血の海に浮かんでいると言える状態だ。
 そして、出入り口付近の子供の死体。
 ここは、一家が惨殺された現場だ。
SANC:1d3/1d6。

<目星>
 男性は背中と手を、女性は腹部及び胸部と首を執拗に刺されているようだ。

※怖い手と怖い喉。まず座っていた父親を刺し、次に隣の部屋から出てきた母親を刺し、最後に騒ぎに起きてきた妹を刺した。知りたいようなら<アイデア>で。


 血の海の中で、小さな背中がただじっと立ち尽くしている。
 その身体もまた全身が赤く染まり、顔からは生気が感じられない。俯いた目は見えず、表情も分からない。ただ、生きてはいるようで、その手にはしっかりと赤く濡れ鈍く光る包丁を握っている。

※記憶とともに家も正しい姿になり、彼もまた正しく事件直後の姿に戻った。包丁がダイニング以外の場所にあった場合はワープする。今更ワープ程度でSANCはいらないです。


「ごめんなさい」
 子供はその小さな背を震わせ、ぽつりとつぶやく。
「ぼくが殺したんです」
「痛いのも怖いのも、もう、いやで」
「今日、たんじょうびだったのに、だれもなにも、いつもと変わらなくて」
「いやな気持ちが広がって、それで、それで……」
「ぼくが……」
 子供は自らの震える手を見た。小さく痩せ細ったそれは爪の先から手のひら、肘先までが血に塗れている。

・善側
「……いやなんです、ぼく、もう」
「怖いのも、痛いのも、もういやなんです」
「それから、それとおんなじことをしてしまった、ぼくのことも」
「……だから、」
「終わらせます。ぜんぶ」
 そう言って痛々しく笑った彼は、震える手で握りしめた包丁の刃先を胸に当てた。

・悪側
「……だめなんです、ぼく、もう」
「いやな気持が、止まらなくて」
「このままだとぼくは、ぼくじゃない、もっと恐ろしい何かに変わっちゃう気がして」
「……だから、」
「終わらせます。ぜんぶ」
 そう言って痛々しく笑った彼は、震える手で握りしめた包丁の刃先を胸に当てた。

※自死の恐怖ですぐには実行できないので、止めるとか説得するとかお祝いするとかできます。止めずに死なせるなら【END:3】へ。


・NPCの自殺を止めたい場合
物理的には、包丁をはたき落とすとか腕を掴むとか羽交い締めにするとかで止められる。少し抵抗するが、弱った身体で悪意の力も借りていないので無意味に等しい。
説得しても簡単に止められる。弱った子供は優しさにチョロい。怖くて死にたくないしね。
いくらか話してエンディングへ。
善側だった場合【END:1】へ。
悪側だった場合【END:2】へ。

※PCに「止めたい」という意思があるならなるべく通してあげてください。そして、その結果をきちんと受け止めさせてください。


・誕生日を祝う
「ただそれを言ってほしかっただけで、こんなことがしたかったわけじゃなかった」と気付き、たとえ悪側に傾いていたとしても善側に傾き直す。
彼が待ち望んでいた言葉をかけてあげれば、彼は思い直し、善側で固定され、自殺も止める。罪を償うために。
どちら側だったとしても【END:1】へ。

 

[変化後の床下収納]
 フローリングに続く血の跡と同じように、極めて自然に、扉やドアノブにも血が付着している。
 開けると、やはり室内にも血の跡が続き、子供がうずくまっていたあたりに血溜まりができている。

 いくらかの物が雑多にしまいこまれた簡素な収納スペース。黴臭く埃っぽい空気が充満しており、隅には埃が積もり白っぽくなっている。
 しまわれているものはどれも数年から十数年は経っているもののように見え、真新しいものはそれらより手前に置かれた品々だけのようだ。
 毛布を寄せ集めて形作られた布団。段ボールに板切れを乗せただけの簡素な机。無造作に置かれた黒のランドセルと教科書やノート。雑に畳まれた服と、大分ボロボロになった小さなスニーカー。少し黄ばんだプラスチック製の衣装ケースには、雑多に物がしまわれている。
 不用品の中にひっそりと息づく生活感――これがこの部屋の本当の姿のようだ。

※ライトはよく見ると百均で買える照明具。衣装ケースの中に箸とか歯ブラシとか鉛筆削りとかハサミとか鏡とかの日用品がしまわれている。家の中に置いておくと勝手に捨てられるので。
※記名を調べるなら拙いながらも丁寧な字で「秋山聡実」と書かれている。
NPCの名前の漢字表記を見ることができるのはここだけです。両親の日記には頑なに彼の名前は書かれていませんので。
※ここはわざわざ誘導したりしなくていいです。ここでイベントに入るとか、PC及びPLから見に行くと言われるとかしない限りはそっとしておいてください。

 


◆◇◆ ED ◆◇◆
[END1]
条件:NPCが死亡せず、悪意から開放される。
ひとしきりRPしてNPCが落ち着いたらエンディング入る感じで。

「ぼく、その、こうなって、部屋に戻って、それで……だれか助けてって、思ったんです。……ちゃんと覚えてはないけど」
「だから、……ありがとうございます」
「ぼくは、もう大丈夫です」
 子供はにっこりと笑って言った。これまでの不安そうな顔が嘘のような、もう大丈夫だと思わせるような、そんな笑顔だ。

<心理学>
 不安、罪悪、嫌悪、恐怖……彼が彼自身へと抱いた強い負の感情が、その小さなからだに、昏い瞳に渦巻いているのを感じる。

 けれど子供は変わらずにこにこと笑っている。なんともないような笑顔を浮かべている。

※自分を虐げてきた他者へと向いていた負の感情が、衝動によって罪を犯した自分へと向き直しただけ。


「多分、玄関から帰れると思います」
 そう言ってあなたを先導するように歩き始める。まだ水気の残る血溜まりを越えて、玄関へと赤い道ができる。

※探索者に対しては「自分はもう大丈夫で、心配は必要ない」と言い張る。こんなにも迷惑をかけたのにこれ以上世話になるわけにはいかないから。探索者があまりにも彼を心配したり帰りたがらないようであれば手をひっぱったり背中を押したりして帰らせようとする。
※一緒に出ようといったことを言われると「……ここがぼくの家ですから、出ても多分……どこにも行けないと思います」という返事をする。どこへもいけないね。


 玄関の扉を開けると、眠りに落ちるような感覚に襲われる。ゆっくりとまぶたが閉じていき、視界が暗くなる。
 まどろみの中、泣きそうに震えた子供の声が聞こえ、そのままあなたの意識は途切れた。
「今日は、ほんとうにありがとうございました。……どうか、お元気で」

※最後の声は、罪の意識とかこれからへの不安とかこんなことに付き合わせてしまった申し訳無さとか優しくしてくれた嬉しさとかを最後まで我慢できなかったもの。子供だからね。


 目が覚めると、見知った寝具の中だった。何も変わったことのない、10月31日の朝のようだ。
 戻ってきた日常の中、あなたは昼頃に一つのニュースを見付ける。

『一家惨殺!犯人は長男!?』
 10月31日7時頃、警察に「家族を殺した」という通報が入りました。
 警察が向かうと家の中で父、母、娘の三人が死亡しており、死因は刃物によるものと思われていますが、滅多刺しのため特定は困難なようです。
 通報者はこの家に住む小学生の長男で、犯行を認めているそうです。
 また娘は今月頭に誕生日を迎えたばかりで、来年には小学校入学を控えていたそうです。
 昨今は少年犯罪が増加していると言われることも多いですが、……

 このニュースはワイドショーやインターネットを賑わせ、そうして一ヶ月もすれば他のセンセーショナルな話題に流されて埋もれて行くのだろう。
 しかし真実は明らかになったのだ。あなたの善、優しさのおかげで。
 咲いた悪意は、実を結ぶ前に枯れたのだ。そして残るのは灼き付くような真実だけだった。

ロベリアの花が咲いた日
END1:【TRUE END】


※補足
NPCに対して探索者ができることはありません。何の繋がりも無い赤の他人が顔を出したところで、その辺の野次馬と同じように扱われるだけです。なにより、NPC自身が「知らない人だ」と証言します。恩人を犯罪者の知り合いにしたくないからです。
この後NPCは実の家族三人を殺害した罪と虐待されていた事実を天秤にかけられ、正しく処罰されるでしょう。そして、けして悪くはない環境に置かれて育っていくでしょう。
善を手に入れた彼が今後自ら命を絶つことはありません。再び悪意に呑まれることも、よほどがない限りありません。探索者の優しさに胸を打たれて、真っ当に生きて、償うと決めたのですから。
彼はこれから、逃げ場の無い茨の道を、探索者がくれた小さな灯りを頼りに進んでいくのでしょう。

※基本的にNPCは今後何があっても探索者と接触しようとしないけれど、よほどよくしてくれたか、仲間意識を持っているか、よっぽど心配されたか、そんなことでもあれば、いずれ、一晩の夢なんて忘れてしまうような頃に、元気を伝える手紙くらいは送ってくれるかもしれませんね。

 

[END2]
条件:NPCが死亡せず、悪意に飲み込まれる。
ひとしきりRPしてNPCが落ち着いたらエンディング入る感じで。

「ぐ、う゛っ……!」
 唸るような苦しげな声を上げた子供は、その頭を痩せた両手で押さえる。取り落した包丁が硬質な音を立てて床に落ちるが、それに構う様子はない。
 唸り声が低く大きくなるにつれて、小さな身体がみるみる膨張していく。服は破れ、膨れる身体に頭部が呑み込まれ、色白な肌はさらに色を失う。

 次第に声は埋もれ小さく消えていく。そこにはもう、憐れな子供は居なかった。
 裸のそれは3mにもなるかという巨体を揺らし、無い眼であなたを見た。白熱し膨れきった胴から伸びる腕をゆらりと伸ばし、手の平に開く濡れた真っ赤な口をあなたに向けた。
 そこにいるのは、とうてい理性の感じられない、怪物だった。
SANC:1/1d20。

・イゴーロナク
株式会社アークライト『クトゥルフ神話TRPG』初版、KADOKAWA、2015年、207ページ。
NPCの変容したイゴーロナクは手始めに目の前にいる人間、探索者をむさぼり食おうとする。
幸い家の中は狭く、たとえ破壊しながらだとしてもイゴーロナクの巨体では動きづらいため、1ターンかければ確実に玄関まで逃げられる。
戦闘する場合、二度目以降のむさぼり食うのダメージは1d6+1になる。悪意と殺意に溢れて張り切っているので。戦闘があんまりにも長引きそうなら、適宜ダメージの+1を+2、+3…と上げていくとかするといいと思います。
また負傷は夢の中でのみ治癒不可。帰還したらきれいさっぱり無くなっている。所詮は夢なので。


・逃げ切った場合
 玄関の扉を開けると、眠りに落ちるような感覚に襲われる。ゆっくりとまぶたが閉じていき、視界が暗くなる。
 そのままあなたの意識は途切れた。

・死亡、気絶した場合
 (致命傷を受けたあなたは、)眠りに落ちるような感覚に襲われる。ゆっくりとまぶたが閉じていき、視界が暗くなる。
 そのままあなたの意識は途切れた。


 目が覚めると、見知った寝具の中だった。何も変わったことのない、10月31日の朝のようだ。
 戻ってきた日常の中、あなたは昼頃に一つのニュースを見付ける。

『一家惨殺!犯人は逃走!?』
 10月31日8時頃、警察に「隣家が静かだ」「隣家から異臭がする」という通報が入りました。
 警察が向かうと家の中で父、母、娘の三人が死亡しており、死因は刃物によるものと思われていますが、滅多刺しのため特定は困難なようです。
 犯人は不明で、現場から逃走したものと思われます。同様にこの家の長男も行方不明となっており、現在捜索をしています。
 また娘は今月頭に誕生日を迎えたばかりで、来年には小学校入学を控えていたそうです。
 早く犯人が見つかるといいのですが、……

 このニュースはワイドショーやインターネットを賑わせ、そうして一ヶ月もすれば他のセンセーショナルな話題に流されて埋もれて行くのだろう。
 犯人不明、猟奇殺人、未解決事件、そんなものはこの世にありふれている。これだってそんな奇妙でありふれた日常の一つでしかないのだ。
 咲いた悪意は実を結び、そして新たな種を蒔く。ただ、それだけの話。

ロベリアの花が咲いた日
END2:【NORMAL END】


※もしイゴーロナクを倒したとしても、夢の中でのできごとなので、PCと同じように現実では生きてるので問題なくEND2です。

※途中で帰る、途中でSAN0になる等でエンディングまで辿り着かなかった場合は、子供はそのまま夜を明かし、現実で目覚めて自分のしたことと悪意を思い出し、呑み込まれ、イゴーロナクと化します。つまり問題なくEND2です。

※SAN0になった場合はその時点で眠りに落ち、現実で起床します。その時にSAN値が1まで回復します。子供の最後のやさしさとかなんかそういう摩訶不思議です。この場合は目覚めてから昼頃まで呆然としているといいでしょう。

※子供はそのまま行方不明。イゴロとして元気に暮らしていきます。
※帰ったら負傷は全部治ってます。狂気も不定以外は帰還時点で解除されます。

 

[END3]
条件:NPCが死亡する。

 子供は深く小さく呼吸をして、包丁を握る手に力を入れる。ぐっと握り直して、胸の中、脈打つ心臓に向けて刃を向ける。
 少し上を向いて、胸の前で手を握り合わせ、目を閉じて、まるで何かに祈るようにして、子供は小さく口を開いた。
「ごめんなさい」
 何に向けてか、何を思ってか、分からない弱々しい懺悔の直後、子供はうずくまる。その胸には包丁が深々と突き刺さり、薄い胸から鮮血が流れる。
 小さな身体はそのまま床に倒れ伏し、少しの間痙攣し、やがて動かなくなった。
 SANC:1d3/1d6。

 その光景を見ていると、眠りに落ちるような感覚に襲われる。ゆっくりとまぶたが閉じていき、視界が暗くなる。
 そのままあなたの意識は途切れた。

 目が覚めると、見知った寝具の中だった。何も変わったことのない、10月31日の朝のようだ。
 戻ってきた日常の中、あなたは昼頃に一つのニュースを見付ける。

『一家惨殺!犯人は逃走!?』
 10月31日8時頃、警察に「隣家が静かだ」「隣家から異臭がする」という通報が入りました。
 警察が向かうと家の中で父、母、娘の三人が死亡しており、死因は刃物によるものと思われていますが、滅多刺しのため特定は困難なようです。
 犯人は不明で、現場から逃走したものと思われます。
 また殺された一人娘は今月頭に誕生日を迎えたばかりで、来年には小学校入学を控えていたそうです。
 三人家族全員が殺害されたということですが、やはり一家に恨みを持った者による……

 しかしどの番組やサイトを見ても、どこにも長男について触れたものがなく、仲の良い三人家族だったとして報じられている。まるで長男などいないかのように。
 いや、実際そうなのだろう。あなたが非現実的な夢の中で彼に会ったように、この世界に彼は居なかったことになった。そういう、ふしぎなことが起きた。それだけなのだろう。
 あの痩せて怯えた憐れな子供は、もう、この世のどこにも居ないのだ。
 悪意が咲くことも、真実を背負うことも、罪を重ねることも、ないのだ。
 それでも一度犯した罪だけは消えることはない。あなただけが、それを知っている。
 このニュースはワイドショーやインターネットを賑わせ、そうして一ヶ月もすれば他のセンセーショナルな話題に流されて埋もれて行くのだろう。

ロベリアの花が咲いた日
END3:【HAPPY END】

 

◆◇◆ 事後処理 ◆◇◆
[SAN報酬]
生還:1d6。

[お土産]
イゴーロナクを目撃した:クトゥルフ神話技能+1。

 



◆◇◆ 後書き ◆◇◆
地雷と性癖の交叉でシナリオ書くと楽しいよって聞いたので書きました。
思い付いてから4時間半くらいで構成が終わったらしいですが、必要テキスト用意するのに一ヶ月くらいかかりました。さらにテストプレイとかなんとかで一ヶ月くらいかかりました。
詳細を埋めるたびにクソ度が跳ね上がっていってあまりにも完成させたくなかったです。まあ完成しちゃいましたけど~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!

出来も都合もいい子なのにたった一点だけが認められなくて虐げられる子ってかわいいと思うんですよ。しかもその一点がもうどうにもできないものだと最高ですよね。さらに自分の方が先だったのにぽっと出の奴に居場所奪われるとかもうね。
っていうクソ性癖にクソ親とクソ性役割観というクソ地雷とクソ悪意を詰め込んだらこうなりました。いやほんと最初はここまでにするつもりなかったんですよなんか気付いたら煮詰まりまくって大変なことになってたんですよ。ほんとクソ。

ロストが一切無いのは単純に「ロストするかもしれないから」と打算的に選択を決めてしまう事態を防ぎたかったのです。100%生還できるから心のままに選択をしてほしいのです。そして探索者に全部背負わせてあげようという親切心。やさしさ。逃さない。
なんとなく付けたエンディング名については、真実と共に罪を背負い続けるか、ありふれた罪を重ね続けるかなら、全て無かったことになるのが一番幸せだと思ったのでこんなことに。HAPPY ENDがあるなんてな~~~んてやさしいシナリオなんだ!

誤解の無いように言っておきますが、作者はこのシナリオをクソだと思ってるし書いた奴クソだなとも思ってます。それはそれとして好きなシナリオだけども。いややっぱ地雷だわ。複雑なお年頃です。

で、え~~~「悪意」がテーマのシナリオなので、日記とかニュースとか他細々した部分とかなるべく悪意たっぷりに書いたつもりです。描写とか構成とかも気持ち悪くなるように悪意込めて書きました。
シナリオタイトルは、芽吹き咲いた「ロベリア=悪意」が罪を犯したことと、「ロベリア=NPCの誕生花」なので花が咲いたつまり彼が産まれた日みたいなそういう感じです。
妹の誕生花はちょうどいい日にちょうどいい花言葉があったのでエイヤッ!しました。どうして見つけちゃったかなぁ。花言葉を悪用するの好きなので……。

あ~~~とあれだ、診断の話しましょうか。あれ別にPCがどうかって話じゃないんですよね。いやまあどうかって話でもあるんだけれども。
どれだけNPCに共感できそうかって診断なんですよね、あれ。共感率が高そうならやばい、そこそこならふつう、あんまりならへいきになるようになってる。はず。だから別に、はっぴーはうすで育ったような心根の優しい人ならへいきでもしんどいだろうし、逆に荒み倒し人の心捨て去りやさぐれマンとかだとやばいでも何ともなく帰れるかもしんないんですよね。
ちなみに診断結果でへいきを出しかつ人の心がない人間は知らず知らずのうちに地雷かましてNPCに対する兵器になりかねないよってギャグでもあります(?)
なのでほんと、目安・参考程度にお使いください。。
あとあの、ほんとに、簡単に地雷踏めちゃうシナリオなので、回す際は色々と気をつけてください。作者はこれ回されたら絶縁状叩きつけかねないなって思いました。

ちなみにテストプレイ時、1陣は診断ふつうでRPガッツリ他サクサクな6時間くらいでEND1、2陣は診断へいきで全体的にサクサク地雷ボンボンな4時間くらいでEND2、3陣は診断へいきで全体的にまったりガッツリな8時間くらいでEND1でした。ご参考までに。

なんか全体的にめっちゃ長くなりましたが、読んでいただいてありがとうございました!楽しくご使用いただけると幸いです!楽しくご使用いただけるのか???